
竜†恋[Dra+KoI]
最初から物語へ
むかし、むかし。
まだこの世がみずからの尾をかむ竜のように完全だったころ。
なにもかもが満ち足りてたころ。
だれもかれもがひとりぼっちで完成していたころ。
とあるひとりの竜が、くるった。
――その狂気を原罪に、我らは供物の役を担う。
■「白」の場合ターン
はじまりの記憶は、光。
そして、飛翔。
質量を持つ光エーテルの中を、翔ける。
そのことに疑問は無い。
泳ぐことを疑う魚がいないように、飛ぶことを疑う鳥がいないように、白の鱗の生を享けた者は、光と翔けることを疑わない。
白の鱗の命は、光と速度を編んで創られる。
白の鱗の命は、生まれると同時に翔けているのだ。
光を呼吸し、速度に融けながら、この身は宇宙と一体になる。
みずからの尾をかむような、完全。
それでは足りないと、何かが訴えていた。
何かに駆り立てられて、翔ける。
光エーテルの海を、昇る。
昇る。
海面/界面を目指して。
光の、向こうへと。
衝撃/加速する光/逆転する時間/爆裂魂は衝撃の中心グラウンドゼロに=其処は回転する運命の輪の中軸。
そして、己オレは爆誕マテリアライズした。
繊細で精巧デリケートアーティスティックなエーテル海を超えて、粗暴ワイルドで粗雑クルードな物質界の側へと。
己オレの物語は、今、この瞬間より始まる。
今こそ世界は己オレを中心に踊り、今こそ己オレは世界の中心で歌うのだ。
さあ、この身を食い破る爆裂よ。
この身を引き裂く回転よ。
宇宙の総てを巻き込み、廻れ廻れ。
己オレは白の鱗の生を享けし者。
光エーテルを紡ぐ機織はたおりにして光エーテルを翔ける銀翼。
己オレは、貴き白。
物質界の慣習ならわしに従い、万有引力が己オレを捕まえる。
遥か頭上の、青い、ちっぽけな星に引っ張られて、墜ちる。
墜ちる。
そうかい。
貴様はこんなにも己オレを求めてくれるのか。
嬉しいな。
己オレも同じ気持ちだよ。
己オレの心もまた、こんなにも焦がれ、ときめいている。
オーケイ。
愛し合おうじゃあないか。
■「防衛隊」の場合ターン
「監視衛星“伏竜”より入電。高次元エーテル反応!」
「エーテル強度301655722……対象は神話固体と判明!」
かつて、英雄の時代があった。
戦場にまだ夢ロマンがあった頃のおはなしだ。
多くの英雄が試練を乗り越え、悪い竜を倒し、栄光を、財宝を、あるいは美しい姫を手に入れた。
困難を乗り越え、幸福を掴む――そんな無邪気な希望に満ちていた時代の、ものがたり。
やがて剣が銃になり、銃は砲になり、砲は核に堕ちて……気づけば戦場からは竜が失われ、英雄の時代は懐かしむ者とていないまま、老いた猫のようにひっそりと息絶えていく。
そのはずだった。
「目標は全身を超硬度のエーテル膜で覆い、大気圏を突破。当国に向かって降下してきます」
「対幻法に基づき、防衛隊第17師団出動します」
むかし、と言っても英雄の時代が失われて久しい、つい最近のむかし。
おおきな戦争があって、たくさんの人が死んだ。
既に戦場には夢ロマンはなく、あらゆる武器は人を焼くためだけに存在していた。
「目標は大気圏を突破後、こちらに向かって飛行中です」
「……戦闘配置に就くように。航空支援の要請よろしく」
「了解!」
「……やれやれ」
おおきな戦争が終わって。
誰も彼もが英雄たちを忘れ、むかしほど無邪気には希望を持たなくなった、そんなつめたい時代が続いて。
だけど、そんなとき、唐突に、それは顕あらわれたのだ。
「ターゲット確認。間違いない、”コードD”です」
「ブラックアロー・リーダーから各機へ。攻撃を開始する。続け!」
「……これで28回目かな?」
「ここ5、6年は約一年間隔ですな」
「……迷惑なことだ」
「目標への効果なし!……化け物め、糞!」
「正面、来ます!」
「回避!回……ッ」
「うわあああああっ!」
50年ほど前の、たしか11月3日。
忘れられた時代から。
神代の彼方より。
それは舞い戻った。
「目標上陸します!」
「おいでなすったか!」
空を隠すほどの威容を誇る巨躯、如何なる刃も弾も通さない堅牢な鱗をまとい、強靭な爪は鋼を布のように引き裂き、山をも噛み砕く牙、視線だけで心臓を凍らせる魔眼、そして形あるものの一切を灰燼に帰す鏖殺おうさつの吐息――――竜ドラゴン。
「一斉砲火!撃TE―――――ッ!」
戦場の時間が巻き戻る。
竜と英雄の時代が帰還する。
虐殺された夢ロマンの、怨嗟と呪詛の聲こえと共に。
*****
time:200X/12/XX16:33
from:親
subject:愛する息子へごめんドラゴンそっちニゲタ(>∀<)ノ*
****
――知ってます。
死ね。
■「僕」の場合ターン
みなさま、こんにちわ。
お元気ですか。
僕はピンチです。
ええい、煩うるさい。
暴れるな。
ピギャーとか吠えるな。
死ね。
あー。
そのー。
なんだろう。
見てのとおりだ。
ドラゴンですよ。
最初にこいつらが現れたのが約50年前。
何の前触れもなく、唐突に現代社会に現れた幻想世界の住人。
何の理由もなく、ただ文明を破壊するためだけに現れた怪物。
当時の科学兵器ではまったく歯が立たず、結局は……なんだっけ。
どこかのスゴイ科学者が作った、酸素だかエーテルだかを破壊する何だかよく分からない発明で倒したんだっけ。
だけど、その後もドラゴンは出現し続けた。
50年前のから数えて、今回ので、えーと28回目だったか。
すごいね。
オリンピックも吃驚びっくりだ。
確かにイベントのようなものなのかも知れない。
ドラゴンが現れる年は、全国が奇妙な高揚感に包まれる。
よくよく考えれば(いや、考えなくてもだ)ものすごく危機的な状況のはずなのに、みんなどこか浮かれている。
それは、喩えるならば
「祭」
のようなものなのだろう。
超ド級の暴力が生み出す活気。
騒々しく荒々しい活力の誇示。
破壊による解放。
新生のための儀式。
まぁ、そんな感じ。
喧嘩御輿けんかみこしとか牛追い祭とかのスゴイやつみたいな。
台風の前のワクワク感とか?……意外と本当に、その程度のことなのかもな。
こんなのが当たり前になってしまった僕たちは、きっと野生とか本能とかそういう動物的に大切な何かが麻痺してしまってるんだろう。
だからって、実際に巻き込まれても平気ってワケじゃないんだけど。
ああ、もう最悪だ。
何もかもが最悪だ。
ちくしょう、死ね。
だいたい、こういうのを何とかするのが防衛隊の本分じゃないか。
いったい毎回毎回、何をやっているんだか。
「……あー。みんな生きてるかーっ?」
「あ……ああ……」
「痛いー、痛いよー。助けてママンーっ」
「やりきれねー」
役立たずは死ねば良いと思う。
街はご覧のとおり大パニックだ。
もちろん僕も大パニックだ。
死ぬ。
このままじゃさすがに死ぬ。
*****
time:200X/12/XX16:35
from:親
subject:愛する息子へ
2イキロ
*****
――分かってます。
死ね。
あっ、くそっ!こっちに向かって近づいてやがる。
――逃げよう。
さっさと逃げよう。
可及的速やかに逃げよう。
僕はドラゴン退治の英雄ヒーローなんかじゃない。
他愛もない、単なる平凡な一学生だ。
きっとご都合主義的な何かがピンチを救ってくれるなんてことは無……
「……ちょっと待ってよ」
……きっとご都合主義的な何かがピンチを救ってくれるなんてことは無い。
無いんだろうけどさ。
だからと言って、ここで短い人生にあっさりエンドマーク……ってのもヒドイ話だと思わないか?そこんとこ、どうなのよ神様?あー。
くそ。
ちくしょう。
死ね。
全部、死ね。
>竜殺機関第伍版一〇刷:神話級霊子ヱーテル反応確認,竜因子ト断定.竜殺機関,霊撃戦態勢ヘ移行.――戮,奉タテマツル.[閉]
■「正体不明アンノウン」の場合ターン
――
「それ」
には意志があったが、意思はなかった。
「それ」
はその性質上、まぎれもなく唯一無二オンリーワンの存在であるにも拘かわらず、「個」という概念を持ち合わせていなかった。
「それ」は「装置」だった。
「それ」はひとつの目的を果たすための機械装置であり、ひとつの物語を演出するための舞台装置だった。
「それ」は「弾丸」だった。
「それ」はただ、誕生と同時に一個の対象に向かって飛翔する物質にして霊質の塊。
迷いの無い一個の弾丸バレットだった。だから「それ」は「彼女」を認識したとき、そのとおりにした。
自らを半ばエーテル化し、一条の光ビームとなって、翔ける。
「それ」は衛星軌道から放たれた天の雷。宙そらを裂き、大気の壁を貫いて、遥か眼下の青い星、竜の形をした島国に向かって、墜ちる。
墜ちる。
「うわあああああ!?」
光は、だけどドラゴンが放ったものではなかった。
はるか上空から、まるで天罰カミナリのように一本の光線ビームが落ちてきて、ドラゴンを撃ったのだ。
衝撃波がほとばしって、建物が壊れていく。
僕もまた爆風に吹き飛ばされて、地面を転がった。
「がっ!ぐわあっ!」
「……………あ痛たたたた……っ」
……今、何が起こったんだ?
「あれは……」
それは異様な光景だった。
もがき苦しむドラゴン。
その周囲で煌めく閃光。
光が走るたび、金属質の鱗が裂けて、血が――黄金きん色の血が噴き出す。
戦車砲ですら跳ね返すドラゴンの鱗が、こうも簡単に引き裂かれるなんて。
いったい何が……
「――え?」
よく目を凝らすと、小さな黒い影がドラゴンの身体の上で躍っていた。
光はその影が持つ何かから放たれているようだった。
というか、これは……
「人……なのか?」
■「白」の場合ターン
痛い痛い痛い酷く痛い酷く酷く酷く痛い痛い痛い痛いぞ
あははははは!素敵だこいつはとてもとても素敵だ素敵極まるこれだこれなのだこうでなくては闘争とは!戦争とは!生きると云う事はこのように凄惨でなければならない愛しい愛しいぞ己オレのジークフリート!しかし何だなこいつはちょっと酷く鬱陶うっとうしいなちょこまかと鬱陶し過ぎるこれはたまらん羽虫か貴様はああまったくもう鬱陶しいなあ成程、成程だ神代の頃のご先祖様達の気持ちも解かろうってもんだ敵わんなこいつはしんどくて敵わんあははは止め止めてくれ痛い痛いってそんな酷いことしないでお願いもっと優しくしてひぎぃっ痛い痛い痛い!あああああ!ウザってえぇぇぇぇぇ本気で戮コロすぞ貴様ァァァァァ―――――ッ!奴が己オレの鱗を蹴って飛翔する。
己オレの真正面。
文字通り目と鼻の先。
手にした殺意を振りかぶる。
とどめを刺すつもりか。
愚かな。
無駄だと云う事は理解しているだろうに。
……まぁ良いさ。
付き合ってやるさ。
己オレもまた無駄だと知りつつ、殺意を咽喉の奥に宿す。
灼熱が胸を満たし、己オレの心はさらなる歓喜に包まれる。
そうだな。
折角の祭典まつりだ。
幕開けの花火は派手であるべきだ。
貴様も同じ気持ちなのだろう?嬉しいな。
嬉しいよ。
己オレの愛しい、まだ見ぬ英雄殿。
オーケイ。
愛し合おうじゃあないか。
「ちょっ……!またかよっ!?」
何が起こってるんだかさっぱりだけど、今度こそ本当にヤバそうだ。
全速力で逃げ――
「う、うわあああああ――――っ!」
■「僕」の場合ターン
「……………」
「…………ひどい目にあった」
周りには、僕と同じように呆然と立ち尽くす人々がいる。
……まぁ、その、なんだ。
ずいぶんと綺麗さっぱりしたもんだ。
ドラゴンの姿はない。
そしてあの黒い人影のようなものも。
さっきの爆発で吹き飛んでしまったのか。
それとも…………結局、何だったんだろうなぁ。
「……………帰るか」
街はひどい有様だったけど、家の方は大丈夫だろう。
死ぬかとも思ったが、生きているなら、まぁ、おおむね問題ない。
周りの人たちものろのろと歩き始めた。
50年前の、親すら生まれていない大昔に始まった、竜の時代。
異常な時代だとずっとずっと言われ続けているけど、本当はみんな解かっているはずだ。
――こんなものはどうってことない、特別でも何でもない、単なる日常だってことに。
だから、まぁ、街が吹き飛んだくらいどうってことないさ。
多分、ね。
■「彼女」の場合ターン
(光を紡ぐ)
(膨大な質量を光の檻の内うちに編む)
(幻痛ペイン)
(幻痛ファントム・ペインが肉の檻の内うちで乱舞する)
(吐血)
(「彼女」は膝を突き、身体を折り曲げて、倒れた)
(聖地の土に額突ぬかずく巡礼者のように)
(幻痛ペイン)
(幻痛ペイン)
(「彼女」は理解している)
(この苦痛ペインこそが、自らの肉からだを現実に繋ぎ止めるものだと)
(ゆえに「彼女」はこの苦痛ペインを愛おしむ)
(呪いのように生きる)
(それは誇りである)
(「彼女」は恐怖であり脅威であり虚無であるのだから)
(呪いのように生きる)
(それは誇りである)
(「彼女」は正しくそう在り続ける)
(「死」を)
(「破壊」を)
(世界に捧げよ)
(我らは供物の王なれば)
「かっ……はぁ……っ!」
(吐血)
(激痛ペイン)
(激痛ペイン)
(しかし、何より耐え難く)
(――餓え――)
(――渇き――)
「血が……足りない」
■「僕」の場合ターン
いつもどおり、公園の中を横切ってショートカットして、家に帰ろうとした。
だけど……なんか変だ。
なんというか。
いつもと様子が違うというか。
澄んだ、冬の空気。
時間も凍ったような、静寂。
どこか侵し難いような、そんな清らかで厳かな何かが場に満ちているような……
「……なに考えてんだ、僕は」
なにポエムな気分に酔ってんだ、僕は。
ドラゴンなんか目の当たりにしたせいか、まだ気持ちが昂ぶっているようだ。
「……やれやれ」
……恥ずかしい奴。
死んでしまえばいいと思う。
変な気持ちを振り払って、僕は再び歩き出した。
……やめておけばいいものを。
僕はいまだに、この時の迂闊さを後悔している。
思い返せば、これは警告だったんだ。
野生の本能の――いや、違う。
ヒトとしての本能。
この身体を流れる血に刻まれた記憶。
ヒトがまだ神代を生きていた頃の、英雄を必要とした時代の、夢を見ることが命懸けだった頃の、とおい記憶。
この時ならばまだ、引き返せたというのに。
いつもの、変わらぬ僕に戻れたはずなのに。
僕の日常が幻想と交差することはなかったのに。
それなのに僕は歩き出してしまったんだ。
それが全ての呪いの元凶であるとも気づかずに。
■「彼女」の場合ターン
「―――――」
ヒトの気配を感じる。
まずは音に聴き、次に匂い。
若いヒトの牡オスの匂い。
『駈ける』……脚で走るとはこういうことか。
ちょっと、感動。
すぐに追いついた。
こちらには気づかず、のん気に歩いている。
眼で闇を見通す。
見立て通り、若い牡オスのようだ。
さらに意識の糸を伸ばし、体内のエーテル流を探るスキャン。
――戦闘力たったの5か。
ゴミめ。
間違った。
そうじゃない。
……兎に角、エーテル的にも極めて良好。
理想的だ。
素晴らしい。
良いだろう。
貴様に決めた。
(「彼女」は躍とんだ)
(月光が「彼女」を照らす。光エーテルの粒子が「彼女」と共に舞う)
(幻想的な光景)
■「僕」の場合ターン
「え……?」
(
「彼」は頭上を振り仰ぐ)
(光の中で舞う
「彼女」に魅入られる)
(「彼」の瞳が「彼女」の瞳を覗き込む)
(魔物の視線には魔力が宿る――そんなことにも気づかずに)
■「彼女」の場合ターン
「本当に素晴らしい」
「貴様は本当に理想的な――」
(「彼女」は「彼」を見下ろし、嘲笑わらう)
(「彼女」の瞳が「彼」の瞳を覗き込む)
「――己の餌だ・・!」
(見つめ合うふたりの視線、それ・にこそ魔力が宿る――そんなことにも気づかずに)
■「僕」と「彼女」の場合ターン
「あ……」
「ふふん……やあ、良い夜だな?」
そして、ふたりは出逢うBOYMETSGIRL。
呪いが、はじまる。
幻想が、降ってきた。
月の夜の、幻想に。
竜が来た、その夜に。
「……どちらさまで?」
空から降ってきた幻想に、語りかける。
日常の側から、向こう側へと。
しぼり出すような声。
冴えない科白せりふだが、それが精一杯。
はたして幻想は、無邪気なような、邪悪なような、そんな不思議な微笑みを浮かべる。
「いや。なに。通りすがりの美少女だ」
幻想は、いけしゃあと答えた。
「死ね」
「いきなり手厳しいな、貴様は」
そういって笑う幻想の貌かんばせが、苦しそうに歪む。
胸を押さえて、息を荒げる。
「……どうかしたのか?」
「いや。なに。持病の癪しゃくがな」
「はあ」
「身体が弱っているんだ。たまらんね」
「そうか。大変なんだな」
「いいもの喰べて、体力をつけないとな」
「そんなもんか」
「……こっちへ来て背中をさすっておくれ、坊や」
「断る」
「優しくないな、貴様は」
もうすっかり冬だっていうのに、汗が噴き出してきた。
此処は多分、ヒトが関わっちゃいけない世界だ。
「ふふん。まぁ、そんなつれないこと言わずにさ……」
幻想という名の猛毒。
一酸化炭素なんかと一緒で、人間が生きていくのに必要な要素よりも、強く強く強く結びついて逃さず、余さず汚染して殺す。
「大人しく……」
逃げなくちゃいけない。
ここはヒトが呼吸できる空気じゃない。
それなのに、僕は幻想に囚われている。
「黙って喰われろ、人間!」
「うわあああっ!」
「なんだよぅ。逃げるなよぅ」
「あ……ああ……っ」
何が起こったのかさっぱりだけど、つい一瞬前まで立っていた地面が、綺麗にえぐられていた。
どこか恍惚とした表情を浮かべ、幻想が近寄ってくる。
「大丈夫。己オレにだって慈悲はある」
「痛くはしない。星の数でも数えてればすぐ終わる」
「終わりたくないよっ!?死んじゃえっ!」
現実的な危機感が、僕を幻想ファンタジーから引き剥がした。
硬直していた身体が動く。
逃げないと……!
「逃がすか!」
背中を向けて逃げ出す僕の真横を、熱いんだか冷たいんだかよく分からない何かが、ものすげースピードで通り過ぎていった。
一瞬後。
「……ほぉわ?あわ……あわわわ……っ」
「いかん。火力の調整を誤った」
「な……な……なんじゃこりゃあああああっ!?」
「……ったく。貴様が大人しくしないから、傷口が開いてしまったではないか」
「えっ?」
そういう彼女の腹部は、血で滲んでいた。
身体を赤く染める血……しかしその色は傷口に近づくにつれ、異様な変容を見せる。
傷口の辺り。
赤に混じって飛沫しぶく、金色。
「これって……」
「手こずらせるな」
彼女の瞳が、妖しく光る。
見るものを射殺いころすような視線は、ヒトというより蛇のそれに似ていた。
光は瞳だけではなかった。
喉元にもそれと同じ輝き……って言うかなんだ、あれ?金属質の、ウロコにも似た何かが埋め込まれていて、光を放っている。
「大丈夫。今度は間違えない。平気だ」
「――逃げられないように、脚だけ灼く」
「うわぁい……ざけんな。死ね」
ヤバイ。
とってもヤバイ。
もう何なんだ、今日は。
なんで僕がこんな目に……っ!――ぷっつん。
あ。
今、何かが切れた。
「だあああああっっっ!」
「へっ?」
突然走り出した僕に、面食らったようだ。
……どうせ、このままじゃどのみち殺やられる。
「だったら先に殺とったらあぁっ!」
窮鼠きゅうそ、猫を噛む。
死中に活を求める。
っていうかヤケクソだった。
「ふふん?ははっ……阿呆あほうが!」
光がさらに輝きを増す。
眩し過ぎて、彼女の顔が見えないほどだ。
光が物理的な圧力プレッシャーをもって、襲いかかって来るような感覚。
……知るかボケ死ねぇぇいっ!
「クロスカウンタァァァァァ―――――ッ!」
「……ッ!」
「……が、がふぅっ」
「あ……ごめん」
ヤバげな光が解き放たれる、まさにその瞬間。
一か八かで繰り出したクロスカウンターは、狙いがちょっとだけ逸それてしまった。
……こういうときって、もしかしてお約束なら胸に当たってキャアア――ッて嬉し恥ずかしな展開になるかもなんだけど。
残念ながら現実は、そういう色気とは程遠く。
ぶっちゃけ、喉笛のどぶえぶち抜いた。
さすがに同情した。
普通、死ぬと思う。
そして、彼女は……
「あんん……はふぅっ」
なぜかなんだか少しだけ気持ち良さそうな表情を浮かべて、あ。
死んだ。
「ただいまぁ……」
「うぃ~す、お帰り~。遅かったな~」
「……なんだ、帰ってたんだ」
「なんだとはなんだよぅ、仕事で疲れてる家族に向かって~……ひっく」
「ぐわあっ!酒臭ぇっ!さっそく出来上がってんじゃねえよっ」
「これが飲まずにやってられっかぁっ!ぐびぐびぐびっ……ぷはぁ~~~~っ!」
先に言っとくが、そこで飲んだくれてるこれ・は、小学生の妹だとか幼女の妹だとか、そんなんじゃあない。
まことに不本意かつ遺憾ながら、こんなのでも僕の保護者である。
「蕩とろけるような甘い声でお母様と呼びたまえ」
「断る。あと死ねばいいと思う、おまえ」
「母親に向かっておまえとは何だ、おまえとは。そんな口きいて良いと思ってんのかコラ」
「それともなにか。おまえってなにか。君は私の夫か?夫なのか?夫なのだな?よっしゃあOKカモンッ!好きに犯せッッッッ!」
「頼むから死んでくれないか」
「私を殺せるのは愛だけだ」
手に負えねえ。
「だいたいドラゴンが出たんだろ?現場ほっといて帰ってきていいのかよ」
「だって死んだんだか消えたんだかも分からねーし。もー知らねーよ。めんどくせーよ。どーでもいいじゃんよ。ぐびぐびぐびぐびぐび……ぷはーっ!おらー、酒もってこいーっ!」
「税金泥棒め。仕事しろ師団長」
こんなのが僕の保護者ってだけでも死にたいくらいにアレな現実だが、さらに死にたくなることに、これ・は防衛隊第17師団……つまりは対竜機甲師団の師団長なんて職に就いている。
階級は竜将。
家族ながらありえねーって思う。
こんなのに国防任せて大丈夫なのか、この国は。
「おかげでひどい目にあったんだ。しっかり守れよ」
「だってー。攻撃効かないんだもんー。しょーがねーじゃんかよー」
「50年間、何やってたんだよ軍ってのは。兵器だって進歩してるだろう?役立たずはカ■■スの原液飲んで速やかに死ね」
「軍って言うな。……違ちげぇんだよ。そーゆーことじゃないんだよ」
「何が?」
武装がどーのこーのとかさ。
最新兵器がどーのこーのとかさ。
そーゆーの関係ねーの。
ドラゴンってのは」
「……はあ?まさか科学の進歩に合わせて、ドラゴンもパワーアップするとか言わないよな?」
「だーかーらー。そーゆーんじゃねーんだよー。竜共あいつらはよぅ」
言って、この常識外れな竜殺しドラゴンスレイヤー殿は少しだけシリアスな表情で煙草を燻くゆらせた。
「ドラゴンってのはさー。幻想ファンタジーなんよ。存在しねーもんなんだよ、本当はさぁ」
――幻想。
「倒せるワケねーじゃん、そんなもん。糠に釘。豆腐にかすがい。のれんに腕押し」
――ヒトを惹きつけて離さない、猛毒。
「多分さー。幻想ファンタジーを終わらせるのは幻想ファンタジーだけなんよ」
――僕が出逢ったあれも、きっと、
「伝説の剣を持った勇者とかさ。謎の科学者が発明したなんちゃらデストロイヤーとかさ。どっかの財閥が秘密裏に開発した巨大ロボットとかさ。光の巨人とかさ。そーゆーの」
――僕は気づかずに、あっち側に、
「必要なんじゃないのかな?そーゆーのがさぁ。どーだろ?」
……どうなんだろう?
「あーあ、やってらんねー!なんかテキトーに地球とか救いてー!」
本気とも冗談とも判らない会話はそこで終わった。
僕の保護者殿は、じっとこっちを睨みつけ。
「で?遅くなったのはドラゴンのせいなのか?夜道はお前のような可愛い子には危ないと母があれほど何度も……」
「あー。いや、別にそれだけじゃないけど」
「ん?他に何か?」
「公園で襲われた」
「なァっ……!?」
「ど……ど……っっっっ!」
「どこの痴女が愛しい息子の純潔をッッッッ!?それは私のもんだぁぁぁぁぁっ!」
「だからさ。死のうよホントに。生まれてきたことを世界に詫びて」
「痴女なんかに……痴女なんかに、手塩に育ててきた我が子を……オオオォ……(※ミツテル風)」
「あああああ!こんなことなら昨日の夜、無理やり犯……ッッ!」
「いいから死ね」
「ぐふぅっ……愛が、重い……っ」
「……まったく」
しかし痴女……じゃなかった。
公園で逢ったあの娘……本当に何者だったんだろう?人間じゃない。
というか、あんな人間いてたまるか。
――幻想を終わらせるのは幻想だけなんよ
「……なんだかなぁ」
公園で逢ったあの娘。
ヒトの姿をした幻想。
……あれ、放っといて良かったのかなぁ。
いや、その、ねえ?あまりにあんまりな出来事だったから、あの後……ぶっちゃけ、そのままにして逃げてきたワケだが。
「げふぉ……おぉおぉ……」
まぁ、いいか。
願わくば安らかに死ね。
とあるひとりの竜が、くるった。
そして、なにもかもが、くるった。
みずからの尾をかむ竜のように完全だったこの世は軸がこわれた車輪のようにネジがこわれたぜんまいのようにくるり、まわり、くるい、まわり、くるり、くるい、それは、みずからの尾をはなした竜が回転軸の中心で猛毒のような狂気を、ふりまいたから。
――次の日。
「突然ですが、転校生を紹介します……さあ、入ってきて」
「よろしく頼む。人間風情ども」
「どんな茶番だこれはッッッッ!?」
「やあ、また逢ったな」
転校生とやらは、昨夜公園で僕に襲いかかってきたあの娘に他ならなかった。
おかしい。
何もかもがおかしい。
僕の日常はどうなってしまったんだ?
「あら、知り合い?ちょうど良いわ。彼のとなりが空いてるから、そこにお座りなさい」
「ああ、承知した」
「稲田先生!ちょっと待った!お約束の流れを自動処理しないで!」
「ちゃんと教科書を見せてあげてね」
「聞けよクソ教師!」
「まぁまぁ、仲良くしようじゃあないか」
「ふざけるな!だいたいおまえ、人間じゃない……」
「失礼な奴だな貴様は。まるでヒトを化け物か何かのように」
「明確にバケモノだっっっ!?」
「おい、けっこう可愛くね?」
「胸でかいよなぁ……いいなぁ」
「ねえねえ?彼とはどういう関係なの?」
「キャー、キャー☆」
「えっ!?今なんか色々と無視して、普通に進行してる!?死にくされって罵ってよろしいか級友ども!」
「……関係?」
「喰うか喰われるかの関係?」
「違うだろっ!?一方的じゃないかっ!」
「『食べる』だなんて……」
「喰うか喰われるか……くんずほぐれつ……」
「ハードコアな……」
「ふふん。なになに、つまり言うなれば夫婦めおとのようなものよ」
「おまえ、いつの間にそんなおいしい目をっ!」
「うらやましすぎるっ!」
「ごめんっ!話の脈絡がさっぱりわからないっ!死ぬしか!」
「ふふん?解からないのか?」
「わかってたまるかぁっ!」
「切ない事を言う……」
「だって貴様は、己オレの一番大事な場所に触れたじゃないか……」
「ぶっっっっ!?」
「な……なんて破廉恥ハレンチなっ!」
「不潔……不潔よぉぉ!」
「ちょっ……ちょっと待って!ちょっ……痛っ……物を投げ……ぐはっ!な、殴るなっ……蹴るなっ!がっ!げほぉっ!」
「……だぁぁぁぁぁっ!死なすぞクズどもっ!」
「怒ったーっ!」
「逃げろーっ!」
「はぁ……はぁ……お、おまえ……なんの言いがかりをっ」
「否いや……確かに、触れたさ」
空気が変わった、ような気がした。
昨夜の公園と同じ、幻想を孕む空気に。
彼女は、無邪気なような、邪悪なような、あの不思議な微笑を浮かべて、喉元を指差し
「貴様は確かに、己の逆鱗に触れた・・・・」
「逆鱗……?」
「ふふん。喩たとえじゃあない。文字通りの意味さ」
そこには鈍く光る、金属質の何かが埋め込まれている。
ウロコにも似た――
「おまえ、まさか……」
「ふふん?」
彼女の瞳が光る。
蛇の眼――竜の瞳。
喉元にも同じ輝き。
埋め込まれた金属片――逆鱗――竜の鱗。
そして薄く開かれた唇――その向こう――咽喉の奥の光――光を湛えた吐息――竜の吐息。
「ドラゴン・・!」
「御名答」
二度、破壊された教室。
燃え盛る爆炎に照らされて、ヒトの姿を真似た幻想は極上の笑顔を向ける。
「己オレは白の鱗の生を享けし者。光エーテルを紡ぐ機織はたおりにして光エーテルを翔ける銀翼――」
「貴き白の竜姫だ」
「……白の竜姫ホワイト・ドラゴン」
つまり。
昨日のアレが――目の前のコレなわけだ。
「ふふん。如何にもだ。鉄と火薬の時代の人間よ。神と英雄の時代より、ドラゴンが罷まかり越したぞ」
「ドラゴンだって……!?」
「……人間じゃない?」
「がおー」
「ド、ドラゴンだぁぁぁっ!」
「うわあああああっ!」
「気づこうよっ!?」
「はいはい、みんな席についてー。出席とりますよー」
「気づけッッッッッ!」
「ふふん」
「それで……要するに復讐に来たってことか……?」
「ふふん?何故に?」
「『逆鱗に触れた』とか何とか……」
「だから、それじゃあ慣用句じゃあないか。そうじゃあない」
「言ってるだろう。己オレと貴様は夫婦のような関係だと」
「ふふん、愛し合おうじゃあないか?」
「ひ……ひ、人を食い殺そうとしたバケモノが何を……っ!」
「貴様こそ何を言っている?愛欲と食欲は同一化願望、一元性への回帰願望としてまったく同質のものじゃあないか」
「うっわー。なにその自意識過剰な中学生みてー理屈。恥じて死ね」
「ふふん。シャイな奴め」
「今度は前振りなしで撃ったっ!」
「さて、昨日の続きといこうじゃあないか。気持ち良くさせてくれよ?」
「やっぱり復讐じゃないか!この腐れ蜥蜴トカゲ!……チクショウ!」
「あはははっ!良いぞ己オレの恋人!逃げろや逃げろ野犬コヨーテの如く!」
あ、危な……っ!今、近かった!すごく近かったっ!し、死ぬっ!足を止めたら、間違いなく死ぬっ!
「ふふん……命を分けるは二歩と半分。ヒトの進化もまた然り。賢く逃げねば、夕餉ゆうげのおかずだ!あはははっ!」
「死ぬぅぅぅぅ―――――!」
「
「
「……………」
」
」
「えーと。ふたりは早退、っと」
「くっ……!」
「あはははっ!」
「遅い遅い!」
「うわわわわわっ!」
「しつこいっ!」
「乙女の想いは一途なのだよ!」
「……ここに身を隠せば」
「何だと言うのかね?」
「……………」
「ふふん?」
「はは……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「どうした、もう息切れか?」
「くっ……死なす!絶ッ対死なさせてやるぅぅっ!」
「ふふんっ、その意気だ!」
「ちょっとあなた。図書室では静かに……」
「逃げろぉぉぉぉぉ――――ッ!」
「コラ?試験前は、生徒の立ち入り禁止……」
「逃げてぇぇぇぇぇ―――――ッ!」
「火力アップーっ。がおーっ」
「……………っッ!?」
「……………ミ☆」
「■■■■■!!!!」
「■■■■■?」
「ra・鰍ンPイ(ノ畚a#2LCc°鉤ッ殼鉧L■﨟ヘム聹黝鷂・迥・1@ル・并Gュ?」
「饗-Qュ纈薮・ョァ¥榕*親っっっ!」
「(#゜д゜)」
「(*´∀`)」
「ギャ――ッ!燃えてるっ、燃えてるーっ!」
「キャ――ッ!先生が焦げてるーっ!誰かーっ!」
「おちついて!みんな、おちついて避難を……」
「ぎゃああああ!脚が……オレの脚がぁぁぁぁ!」
「痛ぇっ!痛ぇよぉぉぉっ!」
「あ……れ……おかしい……な……英二くんの顔……見えないや……あははっ」
「しっかりしろぉ!俺、まだお前に『好き』とも言ってな……………本多ぁぁぁぁぁっ!」
「保健委員メディック!こっちにも負傷者だ!早く!保健委員メディィック――っ!」
「もう駄目……殺して……殺してぇぇぇぇぇ!」
「煩うるさい黙れ糞がッ!寝言ほざいてる暇あったら立ちやがれ!糞ファックッ!」
「あ~~~~……」
何も聞こえない。
何も聞こえない。
僕にはなぁんも聞こえない。
だいたい僕も、他人のことを気にしている余裕はない。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
「ふふん、さぁどうする?逃げ場はもう無いぞ?」
「ホントに……はぁ……なんで……僕が……はぁ……こんな目に……!」
「諦めたのなら、大人しく喰われてくれるかな?」
「……今度は愛を込めて、ゆっくりと咀嚼そしゃくしてあげよう。多分、なかなかに気持ち良いと思うのだが」
「ふふん、どうかね?」
「ざけんなよぉ……蜥蜴トカゲ女」
「来るなら来い……追い詰められた人類が何をするか見せてやる……っ!」
「ふふん?よろしい。では昨夜の借りを返させてもらおうか!」
言って彼女は、ものすごいスピードでこっちに突っ込んできた。
はは……あははは……!また返り討ちにしてやらぁ!死ねやぁぁぁぁぁっ!
「再びクロスカウンタァァァァァ―――――ッ!」
「……ッ!」
「……へ?」
予想していた衝撃は、何もなかった。
ただ、唇に、やわらかい――
「ん……んんぅ……」
……どういうこと?――そのまま、押し倒された。
足掻いても(さすがドラゴンとでも言おうか)彼女の押さえつける力は強くて、振りほどくことは出来なかった。
そんな僕の様子を、竜の瞳が愉しそうに見下ろしている。
「……どういう、つもりだ?」
「ふふん、何度も言っているだろう?」
「愛し合おうじゃあないか……んっ」
「んんっ……!?」
再び唇が重ねられた。
彼女の舌が、口の中に滑り込んでくる。
ずいぶんと長い舌が、僕の舌を絡め取る。
「ん……んふぅ……んぁ……」
「んっ!んん……!んんんっ!」
有無を言わさず、彼女の唾液が流し込まれる。
全てを灼き尽くす竜の吐息が溶けた蜜。
ひどく熱くて、甘い。
彼女もまた、僕の唾液を啜り上げる。
舌を吸われる快感に、うなじの辺りがじんじんと痺れた。
たっぷりと時間をかけて味わい、ようやく唇を離す。
絡まる舌が唾液の糸を引きながら、名残惜しそうに解ほどける。
「ぷはぁっ……!あ……あぅう……」
「ふふん……美味いな。貴様の舌は」
「な……ななな……っ」
「――はじめはな。ただの食事のつもりだったんだ」
舌が僕の頬を舐める。
竜の舌はそのまま下りてきて、首筋――頚動脈の辺りでとまる。
「だが、決めた。何もかも貴様に決めた……ちゅっ」
「んっ……」
強く強く、吸い付いてくる。
僕の首筋にキスマークを残し、喉元を甘噛みして離れる。
熱病に浮かされたような、蕩とろけるような女の瞳が、僕をじっと見つめる。
「何もかも。己オレのはじめては、貴様に決めた」
「話が……全然見えてこない……!」
「ふふん……女に皆まで言わすなよ」
「……っ!?」
おもむろに彼女は、前をはだけた。
衣服の下に押し込まれてた大きな胸がぷるんっと飛び出る。
「ふふーん?大きいのは好きか?」
「な、なにを……――っっ!」
僕の手を取り、自分の胸に押しつける。
や、やわらかっ、やわらかいっ!?
「ヒトの牡オスは不思議なものだな。こぉんなところに間抜けにぶら下がっている脂肪の塊が愉しいなんて」
ぬにゅ。
ぬにゅる。
「しかし、まぁ、喜んでもらえたようで何より」
「さぁ……こちらにも触れてくれ……」
「えっ……あっ」
今度はうって変わって、硬い感触。
僕の指先が彼女の喉元、金属質の鱗に触れている。
「貴様はこの世の誰よりも早く、己オレのこの場所に触れた」
「貴様が、はじめて、なのだ」
恋に潤んだ声は、だけどまるで呪いを告げるようだった。
「――この純潔を貫くのは、己オレの選んだ恋人だけだ」
彼女は僕のズボンに手をかける。
「や……やめ……」
「ふふん……嫌がる顔も可愛いぞ」
ズボンと下着をおろされ、僕の下半身はむき出しにされた。
勃起したペニスが跳ねるように飛び出す。
「……っ!?」
「~~~~っっ!」
「な、なんと、まぁ……これは……」
彼女はまじまじと僕のペニスを凝視する。
その視線が痛くて、恥ずかしくて、だけど(だからこそ、か?くそ、死にたい)なおのこと下半身に血が集まっていく。
「あっ!今、びくってふるえた!」
「いちいち言うな!」
「ふ、ふふん……まだ何もしていないというのに、仕方のない奴だ……」
「そんなに己オレの胸は良いのか?んんっ?」
「死ねっっっ!」
「どれどれ?」
「うっ!?……くぅっ!」
彼女の指が、僕のに触れた。
たったそれだけで、電流のような快感が走り抜ける。
「あはっ……まぁた、ふるえたぁ」
「く、くそぉ……っ」
「しかし……ずいぶんと硬いんだな。骨でも入っているのではないのか?」
「こんなに凶悪な代物を受け入れるのか……正直怖いぞ」
「ぅ……っぁ!考え事しながら……つ、突付くなぁっ!やめ……そこ、やめ……ああんっ!」
「……痛くないようにしないと」
「はぁ……はぁ……くぅぅっ!?」
「ん……ちゅ……ぺちゃ……」
おもむろに彼女は、僕のペニスを舐め出した。
ぬめる、生温かい感触が僕を包む。
「ちょっ……ちょっと……っ!あ……くぅあっ……!」
「ちゅ……じゅぶ……じゅるる……んはぁっ」
「……ちゃんと濡らしておかないと大変だからな……んく、んん」
言って、唾液をたっぷりと垂らし、舌で丹念に塗りたくる。
その間、僕は本当にもう、なんて言うかもう、どーにかなってしまいそうだった。
「……こらこら。勝手に果てるなよ」
ペニスから口を離し、身体を起こす。
スカートの中に手を入れ、そして……
「…………!」
「ほら……よぅく、見てくれ……」
小さな下着がずり下ろされて……スカートが、落とされて……さらけ出された。
その場所は。
ぬれて、てらてらと、光る――
「あ……ああ……あぅ……あぅぅっ」
「貴様のを舐めただけでこんなだ。……どうだい?男冥利に尽きるだろう?」
「じゃあ……そろそろ……」
よだれでべとべとになったペニスを掴んで、自らの秘部にあてがった。
ぬちゃり。
僕の先端が彼女の入り口と触れ合う。
「ひ……っ!」
「嗚呼……ついに奪われてしまう……っ」
「逆だああぁぁぁぁっ!」
「細かいこと言うなよぅ……ほらぁ」
艶然と微笑んで(るつもりだろうが、実際は邪悪極まりない微笑を浮かべて)、秘裂を指で押し広げる。
薄い桜色をしたその場所が、ひくひくと震える。
「正真正銘の未開封だ。この奥は貴様のためだけのものだ……嬉しいだろう?」
「己オレの純潔は、貴様によって引き裂かれ、踏み躙られ、徹底的に穢される、ただそのためだけに守られていたのだ……」
「どうだ?嬉しいだろう?嬉し過ぎるだろう?うんうん、嬉しいに決まっているな」
「こ、こんな屈辱的な目にあわせといて、何言ってやがる……っ!舌を噛んで死ねっ!」
「ふふん?じゃあ止めるか?」
「……っっッ!?」
僕の表情を見て、彼女は明らかに勝ち誇った表情を浮かべた。
くそっ……心底、死にたい。
「こんなに硬ぁくさせておきながら……貴様こそ何を言ってるか」
「ああ、でも舌を噛んで死ぬ必要はないぞ。お互い遠慮なく、ケダモノの様に貪り合おうじゃあないか……」
「では……そろそろ開通ぅ……」
そして彼女は腰を下ろし――
「ッッッ!」
…………。
……………おい。
「ど、どうした……?」
「いや。なに」
「い、いざとなると……やはり、その、怖くてな……」
「ここまでしといて怖気づくかぁっ!」
「あははっ…………さて、どうしようか?」
「僕に訊くな!死ねっ!」
「まぁ、良いや。覚悟完了。えーいっ」
「だからっていきなり開き直るなぁっ!心の準備がまだ……ああぁくぅっ!?」
完全に不意討ちだった。
きつく閉じた肉の中を、無理やり引き裂きながら、突き進んでいく感触。
痛みにも似た激しい快感が、ペニスを襲った。
「い……いぃ……っ!?痛ぁぁぁぁぁいぃぃっ!」
耳が痛くなるほどの悲鳴。
身体を小刻みにふるわせ、瞳にいっぱいの涙を浮かべながら、恨めしそうに僕を睨む。
自分でやったくせに……
「ちょっ……だ、駄目っ……こ、れ……痛すぎ……ひぃ……ぎっ!」
「あ……ああ……くぅっ」
僕のものに貫かれ、彼女のあそこは裂けそうなくらいに押し広げられている。
流れる破瓜の血が痛々しい。
そんな無惨な光景に、僕は異様なほどの興奮を覚えた。
「ひゃあぁぁっ!膣なかで大きく……!や、やめて、くれ……こ、これ以上は……無理ッ……こ、壊れ……るッ!」
「ば、馬鹿ッ……う……動くなっ!じっとして、ないと……ヤバ……っ!」
向こうは向こうで必死そうだが、こっちはこっちで必死だった。
彼女の膣なかは、熱くて、窮屈で、ぐちゅぐちゅで、もうスゴかった。
ただでさえ、何もしなくてもぎゅうぎゅうに締めつけてくるのに、さらに動かれてしまったら我慢が……
「いぃ……ぎぃっ……あああっ!」
「~~~~っっっ!?」
暴れたのが良くなかったのか、さらなる激痛に襲われ、彼女の身体がびくんっと跳ねる。
それが引鉄になった。
狭い膣が強く強く、僕のペニスを締めつけ……
「あ……ああっ!」
頭の中が真っ白になる。
雷が落ちたような快感が、脳天からペニスまでを一直線に貫いた。
「~~~~ッ!?な、何だっ!?今、びくんって……!」
「な、なななな何っ!?な、なんか出てるっ!入ってきてる……んんっ!」
……不覚。
結局、僕は挿入いれただけで、イってしまった。
子宮の奥に、精液を叩きつけるような勢いで、射精する。
「あ……ああ……達したのか?己の膣内なかに挿入はいっただけで」
はい。
そのとおりです。
イきました。
達しました。
射精しました。
そりゃあもう、ものすげー勢いで、射精しました。
膣内なかで、思いっきり射精しました。
もう駄目だ。
死のう。
「そ、そうか……い、きなり……汚されて……しまったのか……己オレは……」
「犯、されて……泣き、散らす処女に……問答無用で、膣内射精なかだしとはな、貴様」
「このぉ……好き勝手、言いやがって……死んでくれ……ぁぁぅ……」
「あぅぅ……んん……はぁぁ……」
「――良し。俄然、やる気が出てきたっ」
「なぜ、そうなるっっ!?」
「もっと乱暴に……滅茶苦茶に、犯してくれ」
「もうっ!何なんだよ、おまえはぁっ!?」
「だって貴様だって、全然萎えてないじゃないか……」
「~っっっ!」
邪悪に微笑んで、膣をぎゅっと締める。
まだ引き抜いてないペニスが反応して震えた。
確かにあれだけ射精したのに、まったく衰えてない。
むしろ、よりいっそう硬く勃起している。
悔しいけど、このままでは収まりがつかなそうだ。
「動く、ぞ…………んんっ!」
「うわっ……!」
「痛ぅ……あ……ああああっ!」
腰を上げる。
今までペニスをキツキツに締めつけてた膣壁が、引き剥がされていく。
まるで咥えたものを離すまいと、しつこく吸い付いてくる感触。
あまりもの快感に、全身が総毛立つ。
「ぐ……ぐぅぅ……きっつぅぅ……ああっ!」
ふたたび腰を下ろす。
今度は打って変わって、ペニスの侵入を拒もうと抵抗してくる。
奥に掘り進むほど、絡みつく襞ひだの感触。
たった一往復しただけでこみ上げてくる射精感に、何とか耐える。
「ふ……ふふん……い、今、切なそうな顔をしてたぞ……そんなに、己オレの膣内なかは、良いか……?」
そう言う彼女もまた、辛そうな、切なそうな顔をしていた。
額には冷や汗を浮かべ、頬を上気させている。
「は、はは……もっと……浅ましい姿を……見せてくれ……っ」
彼女は腰を動かす。
もどかしいくらいにゆっくりとした動きだが、それで充分すぎた。
愛液と精液、それに破瓜の血で滑りはだいぶ良くなっている。
それなのに膣内なかはキツイままなので、もうたまらない。
「あっ……ああっ……あ、ああんっ!……つぅっ」
「はぁ……あああ……あ、あぁぁぁ……あぅぅッ!」
「……はぁ……あ……くぅあ……っ」
あっという間に何も考えられなくなった。
それくらいに気持ちよかった。
数千、数万の蛭の群れがペニスに絡みつくような……いや、ねーよ。
そんな経験。
「ん……んん……はぁ……はぁぁぁっ……」
「……ん?ぁぁんっ……なに?」
無意識のうちに、彼女の尻に手を回していた。
やわらかな感触を楽しみながら、しっかりと押さえつける。
そして……
「~~~~~っっっっ!?ひぃっ……あああああ!」
一気に腰を突き上げ、最奥にペニスを叩きつける!彼女は身を仰け反らせ、悲鳴を上げた。
だけどこれだけでは許さない。
「あああ!?あああああんっ!はぁっ!ああっ!」
「ちょっ……激し、過ぎっ、い、痛いっ!くぅ、ああああ!」
何度も、激しく腰を打ちつける。
ペニスで彼女の膣をえぐって、えぐる。
「やめ……っ!これ……!辛くてっ!あ!あああ!んぐぅぅっ!」
逃げようとする腰をがっちりと押さえ込み、罰を与えるようにさらに激しく突き上げる。
骨盤同士がゴツゴツとぶつかり合う。
彼女の大きな胸が振り回されて、ぶるんぶるんと弾んでいた。
「痛ぁっ!ゆ、許してっ!はあぁっ!ああ!あああ――――っ!」
彼女の懇願を聞き入れるような余裕は、僕にはなかった。
今の僕にはただ、目の前の『女』という肉を貪り尽くすことしか考えられなかった。
今まで味わったことのない快感が、僕の理性を根こそぎ吹き飛ばした。
やがて彼女の様子にも変化があらわれる。
苦しそうに泣き叫んでいたのが……いや多分、痛くて苦しいのはそのままで、ただ被虐の悦びが彼女の思考を満たしていく。
「ひ、酷い……酷いぞぉっ!は、はじめてでっ!こんなに、乱暴にっ、扱われてるっ!ひどいこと、されてるっ!んん……あぁぁぁっ!」
「あ……ぐっ……!そ、そろそろ……!」
限界が近かった。
彼女のことを気遣う余裕も、つもりもない。
ただ自分本位のセックスに酔い痴れた。
ペニスの先端が、熱く痺れる。
「出、るぅぅっ!」
爆発した。
一回目にも劣らない量の精液を、彼女の子宮の中へと一気に注ぎ込む。
それと同時に
「あっ!あああっ!アアアアアァァァァァ――――ッ!」
絶頂の悲鳴が、青空に吸い込まれていく。
膣壁がぎゅうぅぅぅぅぅ!と、精液を搾り取るように締めつけてきた。
それに後押しされて、僕のペニスは何度も脈打ち、尿道の中に残る最後の一滴までをも、彼女に捧げ尽くす。
そして……
「あ……ぁぁ……おなかのなか……たくさん……はぅあっ」
「う……も……だ、め……っ」
ふたりとも、死んだ。
「ん……んん……」
「あ……っ」
きゅぽんっ☆擬音的にはそんな表現が似合う感じで、僕のペニスが彼女の膣から引き抜かれた。
抜かれた瞬間、ぞわりとした感覚が下半身を駆ける。
「おおーっ。ほらほら、見てみろ」
言って、彼女は自分の秘裂を広げた。
ごぼりっ。
破瓜の血が混じったピンク色の精液が、中から溢れてくる。
「物凄い量を注いでくれたものだ」
「うっ……」
気まずい。
恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
「こら。目を背けるな。しっかりと見ろ。まだまだ出てくるぞ。ほらほらほら、こんなに――」
「いちいち確認しなくていいっっっっ!」
無造作に指を突っ込んで、膣内から精液を掻き出している。
すくい上げたそれを鼻先まで持って行き、匂いを嗅ぎ
「凄いな……強烈な牡オスの臭いだ。こんなものをこんなに出されては臭いがこびり付いて、一生取れそうもないな」
邪悪に微笑んで指に絡まる精液を、舌で舐め取った。
「お、おいっ」
「ん……ん……くちゅ……ちゅるる……んっ、んん」
じっくりと味わうように口の中で咀嚼してから、喉を鳴らして飲み込む。
「ふふん。しっかりと匂いつけマーキングされてしまった訳だ。己オレの膣内こはもう、貴様の縄張りだな」
「あ……ぅぅ……」
穴があったら埋まって死にたい。
「ふぅむ……人間と竜とで、妊娠はするかね?」
「僕が知るわけないだろっ」
「それもそうだな。大丈夫。良い母になってみせるぞ」
「……死ね」
「死姦趣味でも?」
「わかった。僕が死ぬ」
「まぁ、早まるな。死んだら鮮度が落ちるから、喰っても美味しくない」
「……どうしてだ?」
「ふふん?」
「どうして、こんな真似を……」
「おいおい。何度言わせれば解かるんだ?」
彼女がにじり寄ってくる。
竜の瞳に射抜かれて、僕は動けない。
「ん……はむ」
「……痛ぅっ」
腕に噛みついてきた。
歯形がくっきりと残るほどに。
皮膚が裂けて、少しだけ血が流れる。
その血を舐めながら、彼女は続ける。
「己オレはこの世界に生まれた」
「壊すために」
「喰らうために」
そして――
「恋をするために」
「あ……」
自然とふたりの顔が近づく。
唇が重なる。
長い、長い、キス。
「あ」
「?」
「精液飲んだんだった」
「##$&!?き、汚っ!げふっ!げはっ!ぺっぺっ!」
「や、や、やっぱり死んでしまえっっ!」
「何だよぅ。貴様が出したものじゃない、か……」
「危ない!」
「はぁ?」
■「対竜機甲師団長」あるいは「母」の場合ターン
学校関係者より警察に通報があったのが、ついさっき。
それとほぼ同時に、同学校にて高次元のエーテル反応を感知、これを神話固体と断定。
対幻法に基づき、事件の管轄を警察から防衛隊に移行。
第17師団出動。
現在、当学校を竜撃装甲服部隊が包囲。
ちなみに竜撃装甲服というのは、いわゆる強化外骨格パワードスーツと呼ばれるアレで、要するに
「戦車並み装甲と重武装」
に
「戦闘ヘリの機動性」
を兼ねるつーコンセプトの素敵歩兵。
これぞまさしく現代に甦った騎士!……まぁ実際はそんなに良いもんじゃなくて、内部なかは暑っ苦しいし、動きはトロいし、試作段階で不都合ばかりだし、金食い虫だし、そもそもこんなもん巨大なドラゴン相手にゃ通用するわけねーし、ついでに付け加えるなら騎士っていうより鋼鉄製のゴリラだ。
この手の扱いに困る最新武装や試作品は大概がうちに回されてくる。
厄介払いというヤツだ。
厄介もの同士まとめてしまえと。
政治で大人な事情ってヤツだ……シィィィット!糞がッ!クソッタレ!ジーザス!サノバビッチ!マザーファッカーっっっ!あー、でもうちの宇宙一愛らしい息子ならマザーファッカーでも私ゃ一向に構いやしねえ。
むしろファック熱烈希望。
禁断の世界へガンホーガンホー。
この少子化のご時世、政府は母子相姦を激しく推奨すべきだと思う。
むしろ義務づけるべきだと思う。
母親こそ男の子が最初に巡り会う女なわけですよ。
正しい性教育を自ら施す責任があると思うのですよ。
総理の野郎、民営化の前にそっちの政策を推し進めるべきじゃないかしらん。
あーあ、息子のムスコにズタボロにレイプされてー。
穴という穴にちんぽ汁流し込まれてー。
第二子にして孫を孕みてー。
あ、やべ、超濡れてきた。
仕事仕事。
「よーし紳士ジェントルマン諸君。準備はよろしいか?」
「
「
「YES!MOM!」
」
」
「OK上等だ。命知らずのドラゴン殺しども。
今回のミッションはアレだ。
あの校舎に私らのアイドル、愛しのトカゲ子ちゃんがいる」
「あんな派手好きなお嬢様の姿が見えないんだから、まぁ多分、小型化か擬態でもしてるんだろーねー。各自、感知器ドラゴンレーダーから目を離さないよーに」
よくあるケースだ。
なにせ物理法則とは無縁な連中だ。
過去にはサイズを自在に変えることが出来る固体も存在した。
さらに別のものに擬態するタイプになると……厄介だなぁ。
やだなぁ。
めんどくせーなぁ。
しかし、今回ばかりはそうも言ってられない状況だ。
「なお今回の作戦は、私が指揮を執る。よーろーしーくーねー」
「師団長自ら?」
「なぁぁぁんで、私が直接指揮を執るかっつーとぉぉぉっ!」
「あの学校には、私の息子がいるんだぁぁぁぁぁっ!」
「助けるぞ!何としても助けるぞ!如何なる犠牲を払ってでも助けるぞ!わかったかぁぁぁっ!」
(公私混同だ……)
(公私混同だよ……)
「シャァラァァァップッ!それとも何か貴官!?私の息子などトカゲに喰われてしまえと!爬虫類の糞並みの価値しかないと!そう言いたいのか!?」
「よくぞ吠えた両生類の糞がぁっ!てめえの股にぶら下がっている粗末で粗悪で粗品なイチモツ、切って刻んで金魚の餌にしてやらぁっ!」
「はい、いいえ師団長!自分はそんなこと一言も……ぎゃああああ!?」
「落ち着いてください師団長!お、落ち着いてぇぇぇーっ!」
「クズの家系を根絶やしにしてやるぅぅぅぅぅっ!」
「はぁ……はぁ……じゃあ……作戦開始」
「はぁ……はぁ……り、了解しました……っ」
「急げ……大事な息子をドラゴンの餌食にしてたまるものか……っ!」
「餌食にされてたぁぁぁぁぁっ!ヽ(`Д´)ノ」
■防衛隊第17師団被害状況大破・轟沈,1名(師団長含む)
「貸せぇぇいっ!」
「ああっ」
「命タマ獲ったらぁぁ――っ!」
「危ない!」
「はぁ?」
「お、おわああぁぁぁぁぁっ!?」
「な、なななっ!今度は何だよっ!?」
■「僕」の場合ターン
屋上の入り口に目を向けると、武装した一団がなだれ込んできた。
「竜撃装甲服ゴリラ?防衛隊か?」
……ってことは。
「ぎゃわわわわ!息子と女を殺して私も死ぬぅぅぅぅっ!」
「止めろっ!師団長を止めろっ!暴走してるぞーっ!」
「うわああああっ!ぐふっ!」
「あー……」
「何だ、あれは?」
「女ぁぁぁぁぁっ!」
「?己オレか?」
「き、きききき、貴様ぁぁぁぁっ!私の息子と何をしてるかぁぁぁっ!」
「息子?」
「…………」
「貴様が?あれの?」
無言で頷く。
いろいろと死にたい。
「貴様もなかなか数奇な出自だな」
「うわっ!わわわわっ!」
「質問に答えろアバズレがぁぁぁぁっ!」
「何をしてたかって……」
「なんだぁぁぁぁっ!?」
「ナニを」
「何をだぁ?」
「セックス」
「糞地獄に堕ちろぉぉぉぉ!糞淫売ぃぃぃぃぃっ!」
「だから危ねぇつぅのぉ―――――っ!」
「ふふんっ!」
彼女は笑って、一歩前に踏み出した。
弾雨の只中に身をさらす。
「――っ!?」
「ふふん……これはこれは、お母様」
銃弾が、彼女を傷つけることはなかった。
硬質な何かに跳ね返された無数の弾丸が、足元に散らばっている。
「バカな……!?」
「挨拶が遅れたな。己オレは息子さんとお付き合いさせていただいてる者だ」
「師団長!あの少女より大規模のエーテル振動が確認されます!」
「間違いありません……神話固体!ドラゴンです!」
「――お前が!?」
「その通りだ。ヒトの戦士の将よ。己オレこそが、此度こたび生を享けたヒトにとっての天敵よ」
「……っ!?この女から離れろ!息子よぉっ!」
「総員、かかれぇい!」
竜撃装甲服たちが一斉に彼女を撃つ。
だけどやっぱり、銃弾では傷ひとつ負わない。
「足りん。足りん。覇気がまるで足りん。そんな程度では、己オレの鱗一枚傷つけることも出来ない」
「突撃ぃぃぃっ!」
「オオオオオッ!」
装甲服ゴリラのひとりが、特殊鋼で造られた大剣“トツカ”を振り下ろす。
人工筋肉によって強化ブーストされた渾身の一撃……!
「悪くはない。が、まだまだ」
「え……えええぇぇ!?」
装甲車さえ両断するという一撃を、彼女は腕一本で軽々と受け止めた。
か細い指が、刀身に絡みつく。
甲高い音を立てて、大剣に亀裂が生じた。
「貴様は竜と対峙する意味を正しく理解していない」
「折れたぁぁぁぁっ!?」
「ふんっ!」
「ぐふおぉうっ!」
華麗なキックをアゴにもらい、超重量の竜撃装甲服が宙を舞った。
地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「竜の鱗一枚は戦士千人の命と等価であることを知れ」
「
「
「吶喊とっかん!」
」
」
吹き飛ばされた仲間の様子にも臆せず、装甲服ゴリラが殺到する。
「ははっ!」
彼女もまた駆け出した。
一斉に振り下ろされる大剣の群れを優雅に躱し、蹴りを、拳を、肘を繰り出す。
面白いくらい簡単に、次々と吹き飛ばされる竜撃装甲服たち。
「ぐほぉぉっ!」
「ギャ――――ッ!」
「おかあさーんっ!」
阿鼻叫喚。
鋼鉄のごついゴリラが、(見た目)か弱い女の子に倒されていく光景は、ひどく滑稽だ。
だけどあの
「女の子」
の身体には、街を破壊するドラゴンのパワーが秘められているのだ。
そりゃあ、単に武装しただけの人間じゃ歯が立たないだろうさ。
ガ■■ムに徒手空拳で挑むようなものだ。
「さぁて、こいつでトドメだ!」
「ま、まさかぁっ!?」
「退避ぃっ!退避ィ――っ!」
「どらごんふぁいあー、がおーっ!」
「
「
「うぎゃああぁぁぁぁぁ―――――っ!」」」
「あーあ……」
「さて……残るは貴様ひとりだぞ、お母様?」
「てめーにゃお母様って呼ばれたくねーっ!ギャオ――――スッ!」
「……人間様舐めんじゃねえぞ爬虫類!息子の『性欲をともなう母への異常な愛』がある限り、私は倒れんさっ!」
「そんなものはない。煮えた鉛をたらふく飲んで死ね」
「ふふん。闘争の火蓋を切る者を、竜は区別も差別も容赦もしない。覚悟は良いか、敵将ジェネラル!」
「ヤんのかコラ!上等だオルゥアア!クズの家系を恐竜帝国ごと根絶やしにすんぞ爬虫類ザウルス!」
あー……。
もうなんか、すっかり盛り上がってるよ。
どうしたらいいんだ。
というよりも、何でこんなことになったんだ?ドラゴンが街を襲ったり……夜の公園で女の子に襲われたり……その娘が転校してきたり……で、殺されかけたり……それから……あー……その……逆レイプ……されたり……とか。
「あー、もー、ワケが分から……」
■「正体不明アンノウン」の場合ターン
「どぅわわわわわっ!?」
「ひゃあああっ!?」
「なんと?」
「今度はなんだよぉぉぉぉ―――――っ!?」
「――貴様ッ」
「え……?」
校舎全体を揺るがすような衝撃の正体は、屋上に墜落した黒い物体だった。
いや……墜落じゃない・・・。
着地・だ。
屋上がひび割れるほどの衝撃の中、だけどそいつはこともなげに立ち上がった。
――黒い甲冑の騎士。
竜撃装甲服みたいな、ブサイクな鋼鉄ゴリラとは違う。
まるでおとぎばなしに出てくる英雄――そう、またしても、幻想の住人が僕の目の前に現れた。
僕はずっと、幻想に囚われている。
「それに……」
この姿。
なにか記憶に引っかかる。
どこかで見たような――
「あ……っ」
あのとき。
防衛隊ですら止められなかったドラゴンを追い詰めた黒い影――まさか、これが……?>竜殺機関第伍版一〇刷:霊子ヱーテル震動ノ波長形式パターン一致.竜因子ト断定.[閉]
「はは……また逢ったな。己オレのジークフリート」
>竜殺機関第伍版一〇刷:――誅戮再開.[閉]
「何なんだ、あいつ……?」
「理解わからないのか、恋人?」
彼女は不敵な――だけど今までとは違う、緊張に引きつった笑みを浮かべて、言った。
「ドラゴンが此処にいるんだ……それならアレはドラゴン退治の英雄に決まってるじゃあないか」
「ドラゴン退治……?」
「そう――『竜殺し』さ」
黒い騎士――『竜殺し』が手に持つ板状の何かから光が伸びた。
光がまるで刃のような形になって、実体化する。
光の剣――ほら、理力フォースがどうのこうの言ってるSF映画に出てくる、アレみたいな感じ。
あのとき、ドラゴンの周囲で光ってたものの正体はこれだったのか。
『竜殺し』が剣を振り上げる。
「まずいな」
「えっ?うわわっ、なに?」
いきなり彼女は、僕の身体を抱き寄せた。
「しっかり掴り給たまえよ?」
「へっ……?」
「あっ!コラそこぉぉぉぉっ!なにをイチャついていやが……」
「……ッッ!?」
光が走り、光が爆ぜた。
同時に僕の身体から重力が失われる。
彼女が僕を抱きかかえ、フェンスを飛び越えて、宙に身を躍らせたのだ。
でも、そんなことに慌てるよりも……さっきまで立っていた屋上が、まばゆい閃光で包まれている。
そして、
「ギャ―――――ッ!」
ドォンッという地鳴りと共に、校舎が真っ二つに裂けた。
嘘ぉっ!?
「容赦のない奴だ……とっ!」
「ぐっ!」
屋上から飛び降りた彼女は、そのままグラウンドに着地した。
衝撃は思ったよりも小さい。
「何だ!?何が起こってる!?」
「応答してください、師団長!」
校舎の異常や空から降ってきた僕たちに、学校を取り囲んでいた防衛隊が色めき立つ。
騒然とした空気に、場は包まれていた。
「お、お前たち!動くな、止ま――」
「――追って来るぞ」
「ぐぎゃおっ!?」
屋上から一気に跳躍してきた『竜殺し』が、装甲服ゴリラのひとりを踏み潰して着地した。
昆虫のような複眼で、不気味に僕たちを見すえる。
「また……!」
「チッ……!」
僕を抱きかかえたまま、再び跳躍。
間一髪――
「うっぎゃああぁぁぁぁ!」
「防衛隊万歳――――っ!」
標的を失った、『竜殺し』の斬撃が装甲服ゴリラたちを吹き飛ばす。
「周りはお構いなしかよ!?」
「情緒ムードに欠けるな、己オレの聖セントジョージ殿は」
さらに躱す。
『竜殺し』の一撃に、グラウンドが割れる。
「うぎゃー!地割れに挟まったーっ!」
「奴だ!奴を撃て!」
装甲服ゴリラの銃撃が、『竜殺し』に集中する。
しかし銃弾は黒い甲冑に弾かれて、効いている様子はまったくない。
>竜殺機関第伍版一〇刷:作戦行動ニ対スル妨害行為ト判断,排除.[閉]
「NOooooo―――――!」
「見境無しかよ……何考えてんだ、あいつ!?」
「何も考えてないさ」
「……どういうことだよ?」
「奴は『竜殺し』の務めを果たすこと以外、何も考えないのさ」
「……英雄じゃなかったのかよ」
「英雄の役目を担う役者だな。いや、むしろ舞台道具かな?」
「それ以外の雑念なんて無いのさ……よっと!」
「そういう訳で、奴は一切の慈悲無し容赦無し分別無しだ。危険だから己オレから離れるな。しっかり抱きつけよ」
「そのついでに卑猥な行為に及んでしまうのは、男の子だからまぁ仕方ないとして、あまり激し過ぎるのは駄目だぞ?」
「寝言は死んでから言え。いや、そうじゃなくて……!」
「ほら、来た!」
「うわああっ!?……むぎゅっ!」
「くぅんっ!ふふん……ほぉら、さっそく卑猥な真似を……」
「いきなり動くからだ!いや、だから、そうじゃな……」
「あはははっ!良いぞ剣士殿ソードダンサー!万物の回転軸に乗って踊れ踊れ!」
「ぎぃやぁああっ!?だ、だからっ!狙われてるのはおまえだろ!?僕を巻き込むなぁ―――――ッ!……むぎゅう」
『竜殺し』の追撃は続く。
光の剣が振られるたびに、大地が裂け、校舎は砕け、装甲服ゴリラが宙を舞い、装甲車は両断される。
「はぁ……はぁ……おのれ」
さすがのドラゴンといえども、防戦一方で息が切れてきたようだ。
対する『竜殺し』は顔色ひとつ変えず、淡々と襲いかかってくる……いや、顔色なんて分からないけどさ。
もともと。
「まったく……まだ役者は揃っていないというのに、何をそんなに焦るか。まったく融通の利かない奴め」
何を言ってるんだか、さっぱり分からない。
そんなことより……
「いい加減……放してくれ……具合が悪くなってきた……うぇっぷ」
飛んだり跳ねたり走ったり回ったり転がったりさんざん振り回されたから、もう三半規管が衰弱死寸前だった。
「ふふん?軟弱だな、恋人よ」
「――だが、確かにこれ以上は庇い切れん。奴は己オレが引きつける。そのうちに早く……!」
「うぷっ……だ、だから……狙われてるのはおまえだっ。光の速さで死ね」
「さて……殺伐としようか、黒騎士殿」
『竜殺し』が動きを止め、身構えた。
光の剣が輝きを増し、放電する。
彼女もまた、深く息を吸い込む。
独特の呼吸法――破壊の吐息を解き放つための。
空気が張り詰める。
緊張に耐え切れないかのように、両者が立つ地面がひび割れる。
見えない鬼迫キハクが、物理的な圧力プレッシャーとなって荒れ狂っているんだ。
竜眼と逆鱗が燃えるように輝く。
複眼と光刃が不気味に煌めく。
そして――
「がおぉぉぉ―――――っ!」
光の吐息ブレスが『竜殺し』を呑み込む!だけど……!>竜殺機関第伍版一〇刷:――仕ツカマツル.[閉]ドラゴン・ブレスの直撃を受けて――それでも『竜殺し』は止まらない!
「――ッ!?」
光が止んだ。
『ドラゴン』と『竜殺し』が、間近の距離でにらみ合っている。
不気味な沈黙が続く。
さすがの『竜殺し』も無傷ではなかった。
黒い装甲のあちこちが赤熱し、溶けかけている。
対する彼女の方は――
「ぐっ……!」
「あ……っ!」
崩れるように、その場に膝を突いた。
ところどころ金が混じった赤い血溜まりが、足元に広がっていく。
「やれやれ……痛い、なぁ……ったくぅ。ま、処女膜……破られた……ときの方が痛かった、けどさ……!」
憎まれ口を叩く彼女をまったく相手せず、『竜殺し』は無言で(最初から何も喋ってないけどさ)剣を振り上げる。
「ふふん……こんな、ことしても……無駄、なのに……な」
不敵に笑うが、身体は動かない。
怪我はかなり深刻なようだ。
こいつは……ヤバイんじゃないのか?『竜殺し』は今にも剣を振り下ろそうと……!助助けけなないいとと…………!!何何がが出出来来るるっっててんんだだ助助けけなないいとと…………!!助助けけなないいとと…………!!何何がが出出来来るるっっててんんだだ何何がが出出来来るるっっててんんだだ助助けけなないいとと…………!!助助けけなないいとと…………!!
「やめろ!」
僕はとっさに、近くに転がる機関銃を拾い上げた。
狙いも定めずに、引鉄を引く。
「ぐわぁっ!」
思った以上の反動に、尻餅を突く。
銃弾は笑えるくらいに全然あたらなかった。
でもそれで良い。
もとよりこんなものが効かないのはわかってる。
要は少しでもこっちに気をそらせれば良い。
「あ……こら、莫迦っ」
案の定、『竜殺し』はこちらを振り向いた。
あー。
でも、マズったなぁ。
思わず反射的に行動しちゃったけど、ここからどうしよう?あれに襲われたら死ぬよなぁ。
十中八九死ぬよなぁ。
あー。
迂闊だった。
馬鹿。
僕の馬鹿。
死ね、クソ。
いやホントに死ぬけど。
このままだと。
だけど、このまま彼女を見捨てるのも、ちょっと……なぁ。
そりゃあドラゴンかも知れないけど、それでも、その……なんだ。
えっち……した女の子な、ワケだし。
逆レイプだとしても、その……こう……情っていうか、なんていうか……そういうものがさ。
はじめて、でもあるワケだし、その……
「あっ……しまっ……」
いつの間にか『竜殺し』の姿が、すぐ目の前にあった。
馬鹿なこと考えてる隙にこれだ。
あー……本気でしくじった。
「待っ……!」
こんなの躱せるワケないじゃん。
死んだ。
こりゃ死んだ。
くそ……短い人生だったなぁ……
「……ん?」
だけど『竜殺し』の剣はいつまで経っても、振り下ろされなかった。
昆虫のような複眼が、じっと僕を見つめている。
……な、何なんだ?>竜殺機関第伍版一〇刷:――英雄譚委員会ラウンド・オブ・テーブル,審査中――賛成:八,条件付賛成:三,保留:一,……――可決.優先順位変更.菩提樹ノ刻印ヲ.[閉]
「……ッ!?熱ぅっ!」
突然、背中に焼きごてを当てられたような激しい痛みを感じた。
痛みは一瞬で消える。
今のはなんだったんだ……?その間、『竜殺し』はずっと僕を見つめていた。
しかし……
「うわあぁぁっ!?」
目の前で『竜殺し』がまばゆい光を放った。
叩きつけるような爆風と轟音が、僕を襲う。
一条の光が天へと昇っていく。
『竜殺し』の姿は、もうなかった。
「助かった……のか?」
安堵のあまり力が抜けて、その場にへたり込む。
そんな僕の様子を、彼女は呆れるような目で見つめていた。
「あーあ……目をつけられてしまったな」
「はぁ?何のことだ?」
たずねる僕に、このトカゲ娘、こともなげにさらりと言ってのけやがった。
「貴様も『竜殺し』に狙われるぞ」
……なんでぇ?
「ほら……しっかりしろよ」
「ぐぅ……んん……ぁ……っ」
『竜殺し』にやられた傷は、さすがに軽くはなかったらしい。
ひとりでは満足に歩けもしない彼女に肩を貸して、落ち着ける場所まで移動する。
僕の保護者のことも少しは多少は心持ちそれとなくほどほどにかすかにわずかに心配でなくもないかもしれないが……防衛隊の援軍がぞろぞろとやって来てる。
そんな中にドラゴンである彼女を放置しとくのは、ちょっと面倒なことになるだろう。
さっさと学校を離れた方がいい。
「よくよく考えれば、僕がここまで世話を焼く理由はないんだが……」
「つれないこと言うなよ恋人。愛し合った仲じゃあないか」
「……うるさい。だまれ」
「二回も膣内なかで、たぁぁぁっぷり出したじゃあないか」
「黙らないなら死ねぇぇいっ!」
「……結局、家に連れてくしかないか」
「彼氏の家にはじめてのお呼ばれ~☆……ってやつだな」
「なんで僕の周囲の女は、脳が死んでることばっかり喋るんだろう……」
「あ……敏感なとこ……触っちゃ……いやぁ……」
「……その常識と倫理が死滅したレスポンスの数々はどんな条件下で起動してるのか、今度部屋のなかの中国人のヒトに訊いてみてくれ」
「……ほら、馬鹿言ってないで傷を見せてみろ」
「くぅん……っ」
「あ、すごい。ほとんどふさがっている」
「鍛えてますから。……体力の方は全然だが」
「速やかに力リキつけるために、軽く喰われてくれないか?」
「そこにトイレの芳香剤の予備があるから食べていいよ」
「太ももあたりを齧らせてくれるだけで良いからー」
「ほう酸団子もあるから食え。いいから食え」
「なんだよぅ。そっちは己オレを喰った癖にさ」
「処女を失ったばかりの繊細な部分を、あんなに激しく乱暴に何度も……」
「しつこいよっ!?」
「はぁ……なんで僕は、ドラゴンなんかを助けてるんだ……」
「ふふん……愛してるぜ?」
「……休んだ方がいい。横になるか?」
「ん……大丈夫」
「……それで、さっきのはどういう意味だ?」
「何が?」
「僕が『竜殺し』に狙われるって……」
「ああ……そのことか。ご愁傷様」
「だから、どういう意味かって訊いてるのっ!」
「――上着を脱げ」
「は、はぁ?いきなり何だよっ?」
「いいから、ちゃっと脱ぐーっ」
「うわわわっ!こ、こらっ!無理やり……!」
僕の上半身を裸にして、背中を調べ出す。
「……やっぱりな」
「……なにが?」
「自分で見えるか?背中の刻印が」
「……刻印?」
近くにあった手鏡を使って、何とか自分の背中を確認する。
そこには木の葉のような模様の痣があった。
『竜殺し』とにらみ合ったとき、焼けるみたいに痛んだ場所だ。
「これは……?」
「菩提樹の葉」
「菩提樹?」
「ジークフリートの伝説は知らないのか?」
「ワグナーの?」
「『ニーベルンゲンの歌』の。悪竜ファーブニルを倒した英雄。我らが天敵たる竜殺し様さ」
「ジークフリートはファーブニルの返り血を浴びて、不死身の肉体を手に入れる。だけど背中に菩提樹の葉が一枚張り付いていたから、そこだけが血を浴びず、唯一の弱点になったのさ」
「はぁ……」
「要するにその刻印は、竜の血を浴びた者の証だ」
「はぁ?」
「あの『竜殺し』は竜の因子全てを赦さない。奴にとっては竜の血を享けた者も排除の対象なのさ」
「ふふん?何やら神話とあべこべになってきたな?」
「兎とに角かく、その菩提樹の刻印はとどのつまり死刑宣告という訳だ……やれやれ、たまらんね?」
「ちょっ……ちょっと待った!?話が見えてこない!」
「竜の血を浴びたって!なんで僕が……!?」
「比喩だ、比喩。つまりは竜の体液を享けるほどに深い接触を持つ――そういうことさ」
「ふふん……さて、己オレの言いたいことが解かるかな?」
「な……な……ななななっ!」
「あんなに深ぁぁぁぁく濃厚かつ濃密に、粘膜と粘膜を交わらせたじゃあないか?」
「己オレたちはもう一心同体のようなものだ……照れるね?」
「は……謀ったなぁぁぁぁぁ―――――っ!?」
「人聞きの悪い!貴様など陥れて何の意味がある!?」
「己オレの貴様に対する全ての行為は、ひとえに一途な乙女心ゆえだ。打算など無いぞっ」
「死にくされ外道ぉぉぉぉぉ―――――っ!」
「あ゛あ゛あ゛!ど、どど、どうしようっ!」
あんなのに襲われて、どうやって生き延びれっていうんだ!?どうして僕ばっかりこんな……!
「愛し合う者同士、仲良く心中しようぜ?」
「無理心中だぁっ!」
「大丈夫。奴に殺される前に喰うよ?」
「助けるんじゃなかったぁぁぁっ!」
「どぅどぅ……落ち着け、落ち着け」
「……それよりも、だ」
「な……なんだよっ」
にじり寄ってくる彼女に、いやな予感がした。
思わず、後ずさろうとしたけど……
「んーんっ」
「んん……っ!?」
また唇を奪われる。
彼女の舌が乱暴に、僕の舌に絡みつく。
「ん……ちゅ……じゅる……んぱぁぁっ」
「んはぁっ!……ま、また、いきなりっ」
「ふふん……またエロいこと、しようぜぇ?」
「お、おい……っ」
「ふふん……ご対面~っ」
あっという間に下半身を裸にされた。
むき出しになったペニスを手に取り、亀頭をさする。
「ほら、いい子~」
「……遊ぶなっ」
「ふふん?それじゃあこれはどうかね?……ちゅ」
「……っっ!」
先っぽに吸いつくようなキスをしてきた。
思いのほか強い刺激に腰が跳ねる。
「いい反応だ……あと、こんなのは?れろ、ぢゅ……じゅぶぶ」
「~~~~っっ!?ちょっ……!そ、そんなの……っ!」
彼女は舌を尿道口に押し込もうとするように、強く突付いてきた。
熱い痛みに包まれ、先っぽがじんじんと疼く。
「じゅぶ……じゅぶぶ……じゅるっ」
鈴口に沿って、上下に嬲られる。
唾液が尿道に流れてくる。
そんな刺激に、僕のペニスは何度も震えた。
「ん……ちゅるる……んん。ほら、もうこんなに硬くなったぞ」
「愛うい奴。ちゅ……ちゅ、ちゅっ」
「ん……んん……っ」
勃起したペニスのあちこちにキスの雨を降らせる。
亀頭に。
鈴口に。
竿に。
根元に。
「どこが一番敏感かな?」
「やめ……っ」
「ここか?ん~~~~~ちゅっ!」
「~~~~ッッッ!」
裏筋に、強くキス。
わざと音を立てて吸い付く。
「ちゅるっ……あはっ、やっぱり。繋ぎ目っぽくて如何にも弱点っぽいからな」
「つ……っっ……じゅ……つ……っ」
雁カリの傘かさの部分を舌先でなぞる。
そのたびにビクビクと震えるペニスを、嘲るような視線で見つめている。
「んーっ?先っぽから何か出てきたぞ?」
「……ぢゅるるっ」
「うっ……くっ……」
先走りの汁を啜る。
さらに鈴口を舐めながら、
「ふふん?男も濡れるということかな?」
「う、うるさいなぁっ」
「貴様は狡ずるい」
舌を押しつけ、ペニスに絡ませる。
飴のようにペニス全体を舐め上げる。
「文句を言いながら、抵抗はしないのだからな」
「うっ……」
「ん……んく……んれ……れろ、れろ……ちゅぶ」
「んふ……んぷっ……ちゅぱ、ちゅぷ……れちゅ、れろっ」
ぺろぺろとペニスを味わう彼女。
舐め上げるたびにわざと大きく音を立てて、僕を挑発する。
ペニスが唾液でぐちょぐちょになる。
少し粘つくよだれが、竿をゆっくりと伝っていく。
亀頭をちゅぱちゅぱと吸いながら、竜の瞳が細く笑う。
「じゅる、ちゅるる……んん……美味おいし……」
「……おまえが言うと怖いぞ」
「ふふーん?それを言うならさ」
竿を横から咥えるように、口づけて
「男が無防備すぎるのさ。こんな一番の急所を、女の口に委ねてしまうなんてさ」
「うあぁっ……つっ!?」
歯を立てる。
強く、ではない。
はむはむと甘噛みしてくる。
「んん……ん……このまま喰べてしまおうか。――噛み切って良いか?」
「い、良いわけあるかっ!」
「ふふん……おや?さらに硬くなってきたな?」
「う……ッ」
「興奮したのか?恋人……実はマゾの人?」
「ん、んなわけ……っ!」
「あーん、はぁむっ☆」
「つぅっ!?」
やや強く噛まれた。
ついでに強く吸われた。
「ほぉら……また大きくなった。マゾだな。マゾッホ」
「死ね、サドっ。バスティーユ牢獄に帰れっ」
「こっちの具合はどうかな?」
「今度は何を……っ!」
彼女は僕の股間に顔をうずめた。
睾丸を口に含み、啜り上げる。
「はむ……じゅぶ……ぢゅるるるるっ!」
「……っ……っぱぁ。ふぅん……ここは一層、臭いが濃いな」
「かっ……くっ……な、なにを馬鹿な真似を……」
「んれ……んれ……れろ……ちゅぷ」
「は……ぅっ!し、舌の上で転がすなぁっ!」
「ふふん、では辛そうに緊張してる、こっちの相手をしてやるか」
「ん……んん……ちゅ……ぢゅぶ……ぢゅぶぶっ」
再びペニスを熱心に舐め出す。
舌の動きはだんだんと、こちらのツボを押さえたものになっていく。
的確に僕の快感を引きずり出していく。
「うっ……つっ……そもそも……どこで、こんな知識を……」
「んー?エーテル海を通じて世界アカシャに同化アクセスしてだな。天命黙示エンブリオ・ファンタズムから情報を……」
「そんな設定の大風呂敷広げといて、やってることはエロ知識の習得かよ。死んだ方がいいよ、おまえ」
「地球ガイアの叡智に屈するが良い。ん……ちゅっ」
さらに激しくペニスを舐められたりしゃぶられたり嬲られたりする。
完全になすがままだった。
快感に勝てない自分が恨めしかった。
死のう。
「じゅる……じゅぶ、ちゅうぅぅ……ちゅ、ちゅ、ぺろ、んれ……んんんっ」
「あくぅっ……あっ……んん……ま、待って」
「?」
「これ以上はもう……っ」
下腹の奥底から迫り上がってくる熱い気配があった。
限界が近いのを感じる。
「……ほほぅ?」
「……ちゅぶ、じゅぶ、ぢゅぶぶ、ちゅぱ、ちゅぱ、つっ……ん……はぅん……く……あむぅ」
だけど彼女は目を細めて、邪悪な笑みを浮かべるとフェラを再開した。
「あうぅっ!……だ、だからもう駄目だって……!」
「んぷ……ぷはぁ……良いさ。このまま射精してしまえ」
「なっ……!?」
「ほら、さっきは二回とも膣内なかで出されたからな」
「男が射精するところをじっくり観察したい」
「ば、馬鹿っ!ふざけるな……んんんっ!」
「ちゅぅっ!ささっ、遠慮せず。ドバーッと」
「ん……んん……ちゅぱ、ちゅ、ちゅれ、れろっ、じゅるるっ」
「や、やめ……っ!こら、くそ、死ね……くぅっ!」
こみ上げてくるものを、押し止めることは出来ない。
亀頭がはち切れそうなくらいに膨らんで、爆発寸前だった。
「とどめ……かぷっ」
「%&$#”%っっ!?んんんんっ!」
不意討ちの痛みに、最後の堤防が決壊した。
ものすごい勢いで大量の精液が噴き出した。
「んきゃっ!?おお?……おーっ」
驚いてるような、感心してるような彼女の顔に、精液が降り注ぐ。
粘つく白濁液が頬を、額を、髪の毛を汚していく。
「まだびゅくしてるな……んんっ」
「ちゅぅぅぅぅぅ~~~~……」
「つ……ぁぁぁ……っ!」
顔にかかる精液は気にせず、彼女は鈴口を啜り上げる。
まだ尿道口に残っていた精液が、彼女の口へと吸い込まれていく。
最後の一滴まで吸い取られる快感に、深い満足を覚えた。
「ん……んんっ……美味しいな……」
「ん……ちゅぱ、ちゅぱっ」
指で頬にかかった精液をすくい取り、口へと運ぶ。
どろりとした精液の塊を舌に乗せ、転がすようにして味わう。
「ん……ごくんっ……ん、ん……臭いも味も濃いな。己オレ好みだぞ?」
そうしている間にも、顔にかかった精液は垂れてくる。
頬から伝う精液が顎から雫となって、ぼとりと落ちる。
髪に飛んだ分は染み込み、絡まり合って、固まってしまう。
額に飛んだ分も、鼻先へ、まぶたへと流れていく。
「あ、駄目駄目。目に入る……はむ」
「拭ったのをいちいち食べるなっ!」
「むにゅ……んん……だって勿体無いじゃあないか」
「嗚呼……良いなぁ。顔中、熱くて臭いなぁ……頭がくらくらする」
「変態だっ!おまえは間違いなく変態だっ!」
「変態のほうが人生ならびに竜生、愉快に過ごせるぞ?さて、このまま本番へと突入しようかっ」
「待って……せ、せめて休んでから……」
「しかしあれだな。処女と童貞はいかんな。色を知ったら猿だな。まったくもって恥ずかしい……いや、むしろ恥知らずなのか」
「……浅ましいねぇ、お互い?」
「一方的だぁぁぁっ!」
「ふふん……それでは、と」
彼女が身をくねらせながら、服を脱ぎ捨てようとする。
僕は相変わらず流されるまま――
「息子ーっ!戻っているかーっ!居るなら返事し……ろ……」
「……………ひっく」
「……あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
「……ふふん?」
「ギャオ―――――スッッッッ!」
ネズミ
「竜がくるった!」
ネズミ
「ぜんぶくるった!」
ネズミたちがさわぎますネズミたちがくるいますさわいでくるって、心ぞうがドクドク高鳴ります竜の心ぞうどくんと一回ネズミの心ぞうどくどくどくどく十おく回ネズミはぜんぶ死にましたチクタクマン
「竜の狂気が汚染して宇宙の軸がくるってくおいらの時計もくるいだすこれはもうしんぼうたまらん」
不整脈のチクタクマンが、あべこべなリズムで、びょう針をきざみます九十年やすまずはたらいてそのまま、ぽっくりさようならハイタカ
「訴訟をおこすぞ。裁判だ!」
ハヤブサ
「竜を法廷へ!」
六十人委員会があつまってケンケンゴウゴウハイタカとハヤブサは老いて狩人に撃たれ雨に打たれ太母
「竜は死けいだ!」
鏡影
「竜は死けいだ!」
賢者
「竜のクビをしめろ!」
道化
「竜のクビをくくれ!」
仮面
「竜のクビをはねろ!」
自己
「竜のクビをおとせ!」
それでは足りない。
竜の罪は巨人のささえる天よりも重く、世界樹が張る根よりも深い。
男
「呪いを」
女
「竜に呪いを」
男
「鱗の生に呪いを」
女
「鱗の総てに呪いを」
「差し出された毒盃を我らは拒みはしない。我らは嫉妬の渦。我らは自らを捧げ貪り、喰われる」
「ん……っ」
カーテンのすき間から差し込む朝日がまぶしい。
「朝か……うぅ」
眠ったのに、疲れはあまりとれていない。
おととい、昨日とひどい目にあい続けているんだ。
仕方ないとは思うけど……
「ほら、朝だよー!早く起きないと、遅刻しちゃうぞぉ☆」
「…………」
――悪夢はまだまだ終わらない。
「……何のつもりだ?」
「一緒に学校に行こうと。……それっぽいだろ?」
「何がだ」
「恋っぽいことしようぜぇ?」
「こんな演出いらん。死ね」
「ふむ?……朝勃ちのを咥えてた方が、それっぽかったか?」
「おまえの脳は本当に壊死してるな」
「仕切り直そうか?」
「人生をな」
「息子の朝勃ちは私のもんだああぁぁぁぁぁっ!死ねぇぇぇぇぇっ!」
「おまえも死ね」
「ぐぶぅおぶっ……愛が……痛いっ」
「
「
「突撃ィィィ―――――ッ!」
」
」
「なんでここにいるぅぅぅ――――っ!?」
「がおー」
「待てっ!早ま……る、な……っ!」
どかーん。
「んん……もぐ……」
「はぐっ、もぐっ」
「はふ……はむ……」
「んぐ……んぐ……もぐ……」
「もぐもぐがぶっ……あっ、醤油とって」
「はい」
「さんきゅ……もぐむぐはぐぅ」
「……んぐ……はふ、はふ……ごくっ」
「おかわりは?」
「くれ」
「ん……ほれ」
「さんきゅ……ぱく、ばく、んぐっ」
「もぐ、もぐ……ふふん?覇道重工の株価が下がってきてるな?」
「ものを食べながら新聞を読むな。行儀が悪い」
「むーっ」
「はぐっ、はぐっ……もふ、もふ」
「がつ、がつ……むぐむぐっ」
「むぐっ……はふ……もきゅ……」
「ん……んんっ……もぐっ」
「お茶は?」
「もらう」
「はい、どうぞ」
「あんがと……ごく、ごく」
「むふ、もぐ、んぐ……あ、己オレもおかわり」
「おー……」
「ってなんで貴様が朝飯食っとるんじゃあああああっ!」
「前振りのボケが長ぇよ」
「師団長、自分もおかわりであります」
「なんであんたらもいるんだよっ!?せめてそれを脱げっ!」
「おのれ爬虫生物……私と息子の平和で淫らな日常まで侵すつもりかっ!」
「淫ら違う。死ね」
「ふふん、昨日の敵は今日の嫁……つれないことを言うな、義母上様」
「義母はって言うなぁぁぁぁぁ―――――ッ!」
「まぁ、それはさておき」
「……説明はしたよな?貴様の大事な息子は『竜殺し』に狙われていると」
「うっ」
「奴と渡り合えるのは唯一、己オレだけだ……少なくとも奴を倒すまでは傍そばにいた方が良くないかね?」
「狙われたのはおまえのせいだけどな」
「ううううう~っ!」
「ふふん、安心したまえ。当面は己オレが守ってやる。何しろ己オレにとっても大事な身体だ」
「狙ってるのはおまえもだもんな」
「だ、大事な身体……ってぇっ!」
「皆まで言わすなよ……ぽっ」
「もう絶対勘弁ならねえぇぇぇぇぇ―――――っ!」
「ぎゃアアああっ!?流れ弾がぁぁぁっ!」
「シュタイナァァァァ――ッ!」
「食事中は静かにしろぉぉぉぉっ!」
「もぐ、もぐ、もぐ……おかわり」
「復旧作業のためしばらく休校――学校長」
「…………」
「……そりゃそうか」
まったくの無駄足だった。
「ったく。どこぞの誰かが暴れるから……死ねよや」
「はんっ、あれしきで軟弱な。夜中に校舎を爆破して回ったスクールでウォーズな時代を生き抜いたサムライの魂はもう失われたのか。嘆かわしい」
「いねえよそんなオザキ。ラグビーも関係ねえよオザキ」
「せっかく一緒に登校などという、恋っぽい状況だったのに……つまらん」
「休校では『一時限目をサボってデート』も『お弁当作ってきたんだけど』イベントも起こせそうにないな。つまらん」
「僕のあずかり知らぬところで、いろんな催しが企画されてそうだな……休校で安心したよ」
「仕方ないから普通にデートしよう」
「何が仕方ないんだ。さっぱりわからないぞ」
「だーかーらー。恋っぽいことしようぜぇ?」
「断る。ひとりで賄まかなえ」
「…………」
「恋っぽいこと、しようぜぇ?」
「い、いつまでも……脅しが通用すると思うなっ」
「さもないと、昼食はレバ刺しが良い」
「は、はははっ……上等ぉ、やってみろ……道連れに食中毒で死なさすぞッ」
「酷いものだ。昨日はあんなに愛し合ったのに。己オレとは所詮、遊びだったのか」
「お決まりの科白せりふ吐きやがって」
「ぐすん……本当に妊娠してたらどうするんだ……」
「卵でも産むか?」
「ああ、口から」
「それドラゴンじゃないよ。ナメクジっぽい語感の別の何かだよ、きっと」
「ぶーぶー、ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃんよーっ。デートしようぜぇ、デぇートぉーっ」
「『竜殺し』に狙われてんだぜ?己オレが守ってんだぜ?少しぐらいは機嫌とった方が得だと思うんだがなっ」
「だから、おまえのせいだろうがっ」
「……ったく」
付付きき合合うう付付きき合合うう断断固固ととししてて帰帰るる断断固固ととししてて帰帰るる付付きき合合うう付付きき合合うう付付きき合合うう
「ををををっ!それっぽい!それっぽくなってきたぁ――っ!」
ドラゴンの奴、テンション馬鹿高。
「それではいちゃつきながら、回ろうじゃあないか」
言って彼女は、すっと手を差し出した。
「?」
「手をつなごう」
「なんで」
「手をつなごう」
「……はぁ~っ」
しぶしぶ手をつなぐ。
しっかりとではなく、軽く指を絡めるような、そんな塩梅。
「ふふんっ」
「……あいかわらず気に入らない笑い方だ」
「えへへ」
「~~っっ」
――ジェットコースター。
「お約束~」
「……こういうのって、ドラゴンでも楽しめるのか?」
「重力に振り回された経験はないからな。それなりにいけそうだが?」
「そういうもんか?」
「ふふん、意外に楽しめた」
「……僕は意外に堪こたえたよ……うぷっ」
――コーヒーカップ。
「すごいスピードで回転させるの禁止」
「……チッ」
「僕の三半規管を過労死させる気か」
「……………」
「……………」
「回転の極意を掴めっ!」
「やめろぉぉぉぉぉ――――っ!」
――メリーゴーランド。
「また……回転系か……ぐふっ」
「今度はまったりしたヤツじゃあないか」
「見るだけでウンザリだ……まったくもって地獄の有様だ。死ねクソッタレ……うぷぷっ」
「情けないこと言ってないで、姫をエスコートしたまえよ、白馬の王子様?」
「……それよりも先に、悪いドラゴンを倒してお姫様を助けないとな」
「ふふん?言うじゃあないか!」
「そうさな。悪いドラゴンを倒して、お姫様とハッピーエンドだ!……気張りたまえよ????」
「引っぱるなッ。少しは休ませ……ああ、もうっ!」
「いい加減休ませろ……」
「そうだな。何か喰おうか」
「ふふん?あそこに良い感じのベンチがあるな?並んで座ってアイスを食べよう」
「頬についたクリームを舐め合ったりするとかなり恋っぽい」
「今は冬だ。死なす気か」
――お化け屋敷ホーンテッド・ハウス。
「――教育してやろう。化物フリークスの闘争というものを」
「全員退避ぃぃぃぃぃ――――っ!」
――ヒーローショー。
「これがパワーアップした『アーマード・ヴェドゴニア』だ!覚悟しろリァノーン!」
「2クール目からディレクターが降板されて、変なテコ入れがあったんだよ」
「なんでそんなこと知ってるんだ、おまえ……」
「やはり玩具おもちゃが売れないとな」
「知らないよ」
最後は観覧車だった。
何から何までコテコテだ。
「あああははははははっっ、、、高いなぁっ」
「……おまえ空飛べるだろ?」
「鱗をまとい翔びながら見る景色と、ヒトの姿で見下ろす景色は違うさ」
「そういうもんか」
ジェットコースターのときも似たようなこと言ってたな。
「ふふん……今日はなかなかに恋っぽかった...た。楽しかったよ」
「巻き込まれるこっちの身にもなってくれ……心労と過労で死にそうだ」
「――楽しかったよ」
「…………」
僕を見返す彼女の瞳に一瞬、切実な輝きが宿った気がした。
だけどそれはすぐに、邪悪に笑う蛇眼の向こう側へと、消えてゆく。
「貴様にはもう少し恋人らしく振舞って欲しかったがな?ふふん、まぁ素直じゃない愛うい奴と思ってやろう……」
「……なぁ?」
「……?」
「なんでこんなことするんだ?」
「ふふん?だから恋っぽく……」
「はぐらかすなよ」
「……何を言っている?」
「なんで、そんなに必死なんだ?」
「―――――」
彼女は微笑むを止た。
真っ直ぐと、曇りのない瞳で、僕の目を覗き込む。
心の真ん中に突き刺さるような、視線。
「我らはな」
彼女は静かに答えた。
「繋がりたいのだよ」
「繋がる?」
「そう」
「……何と?」
「誰かと」
「……………」
「そして己オレは」
彼女は僕の心臓ハートを指差した。
心ハートの真ん中を。
「貴様に、恋をしたのだ」
「ふふん、本当に何度も同じことを言わせるんだな?愛の言葉に弱いタイプか?ロマンチストだな」
「……食べようとしてるのに?」
「ああ、繋がりたいからな」
「あたりかまわず、何でも壊すのに」
「ああ、繋がりたいからな」
「何だよそれ?」
「竜は、それしか知らない」
「……?」
「壊すことでしか、繋がれないのだよ。それが我らの役割だから」
「……何だよ、それ」
「我ら竜はね」
彼女はやっぱり曇りのない――迷いのない瞳で、そう言った。
「呪いの様に生きて祝いの様に死ぬのだ」
瞳には魔力が宿る――そんなことにも気づかずに。
「…………」
「……………気にいらねぇぇぇぇぇ――――っ!」
「……なんだよ、唐突に?」
「女の勘だがッ!」
「だから何だよ」
「君たちふたりから、不愉快な気配がするっっっっ!」
「……はぁ?」
「なんつーの?ラブ臭?ジュヴナイル臭?青春的な何か?切なくも甘酸っぱい果実的な何か?エロスなのかっ!?」
「わかんないよっ!?」
「オオオオオ……息子が、母以外の女に興味をぉっ!」
「お母さんはそんな子に育てた覚えはないっ!」
「死ねっ!……ったく」
「おかわり」
甲斐性なしというか。
相手の思うつぼというか。
僕は少しずつ、彼女に惹かれていった。
まるで呪いの様に。
(鱗に宿る時間いんどらこぉねほぉら)
(鱗に託す望みいんどらこぉねすぺぇす)
(鱗に浮かぶ迷いいんどらこぉねえっら)
(鱗に眠る真実いんどらこぉねうぇーりたす)
(鱗にうつろう幻いんどらこぉねそむにうむ)
(鱗に映す宿命いんどらこぉねふぁあつむ)
(鱗に閉ざす理由いんどらこぉねかうさ)
(竜の中のいんどらこぉねあもる――)
「……何の歌?」
「んー?」
「ふふん、他愛も無いラブソングだよ」
そばにいると解かる。
彼女を構築する独特の倫理観に……いや違うな。
なんて言えばいいんだろう?……世界観?そうだ、世界観だ。
僕が観る世界と、彼女の、竜の瞳を通して観る世界は違うんだ。
「ふふん、それはね。夢ロマンだよ」
「夢ロマン?」
「物語ってことさ。竜はね。語り、語られる存在ものなのだ」
「竜はね。夢ロマンを生きるんだよ」
「はぁ……」
「ふふん、貴様も夢ロマンに貢献せねばならん。当面は甘い恋の物語ロマンスに、な?ささ、腕を組みたまえ」
「~~~~っ」
「――とあるひとりの竜がくるった」
「なに、それ?」
「創造神話コスモゴニーだよ。我ら竜のね」
「我ら竜はひとりの物狂いを神祖おやとするのさ」
「ドラゴンに伝わる神話ってワケか」
「別に伝わっちゃいない。識ってるだけで」
「はぁ?」
「自分以外の竜とは面識が無いからね。他の連中がどう考えてるかまでは」
「……それってつまり、全部おまえの妄想じゃないのか?」
「ふふん、そうかもな?まぁ、元より夢ロマンの共有なんて幻想ファンタジーさ」
「だけど少なくとも己オレは、この世界観を通して宇宙に触れている」
「――竜はいたんだよ。哀れで愚かな物狂いの、な」
「まぁ、ヒトも同じだろうけどね」
「なんだ、やぶからぼうに?」
「ヒトもまた夢ロマンを生きるのさ」
「ヒトもまた、語り、語られるのだ」
「言いたいことが、いまいちよくわからない」
「ふふん。つまりはそういうこと・・・さ」
「わからないものさ。誰かの夢ロマンなんて」
「――いろんな夢ロマンがある。竜には竜の。ヒトにはヒトの。猫には猫の。虫には虫の。神には神の夢ロマンが」
「草花や機械、路傍の石に至るまで。皆、おのれの夢ロマンを生きているのだ。――たったひとつのな」
「貴様には貴様の。己オレには己オレの。たったひとつの。誰のものでもない、自分だけの」
「貴様の夢に、己オレの居場所が欲しい」
「……夢は共有できないんじゃなかったっけ?」
「ふふん、たったひとつ・・・だけど、たったひとり・・・ではいられないさ」
「だから恋が芽生えたり、戦いが始まったり。そしてそれすらも夢ロマンになる」
「ふふん、愛し合おうじゃあないか」
彼女をそっと、ベッドに押し倒す。
「ん……?」
上着をぬがせていく。
ブラを外すと、大きな胸がぷるんとふるえて、こぼれ出した。
「あ……ん……」
僕は両胸に手をそえ、かき回すように揉む。
心地好い弾力が、手のひらに返ってくる。
「ん……んん……」
上下に動かしたり、円を描いてみたりする。
乳房がぐにゃと形を変える様が、面白い。
「っ、っ…………!?んひゃんっ!」
不意討ちに、強く乳房を握った。
指の隙間から、たわわな肉がはみ出ている。
ぐにぐにと乱暴に揉みしだく。
彼女は辛そうに顔を歪めるが、何も苦痛のせいばかりではない。
「く……うぅんんんっ!」
乳首を摘まむ、というよりつねる。
彼女の身体がびくんと跳ねた。
恨めしそうな瞳で、僕を見つめ返す。
「……乱暴だな」
「ふん……おまえなんかに気を遣うか」
「強がっちゃって…………んくぅっ!」
乳首をこねくり回してやった。
「ん……んん……仕方のない奴だ」
「……ふん」
そのまま黙々と胸を揉む。
癪だけど、こうして彼女の胸を触るのは、かなり好きだ。
一日中こうしていたいと思うことだってある。
「本当に貴様は、己オレのおっぱいが好きなんだなぁ」
「おっぱいおっぱいと叫びながら、奇行に走っても良いぞ?」
「脳神経が感電死してるのか、おまえ?」
「ふふん……でも、したいことはあるだろ?」
「……っ!?……~~~~っ」
「ふふん、図星だろう?」
……こいつは勘が鋭いから嫌いだ。
心底、死んでほしい。
「ほぉら、打ち明けてみろ?その仏頂面の奥に秘めた変態的性癖を包み隠さず」
「…………」
僕は答えず、ズボンを脱いだ。
すでに勃起しているペニスを、彼女に突きつける。
「へっ?」
なんか想像を超えていたらしい。
それまで勝ち誇ってた顔が、急にきょとんとなる。
「~~~~っ」
……変に注目されて、冷やかされるよりかえって気まずい。
内心をごまかすように、黙って行為を続ける。
「あ……っ」
僕はペニスを、彼女の胸で包み込んだ。
あたたかくやわらかい刺激に、少しだけ震えた。
「ほぁ~……?」
「うっ……」
彼女はあいかわらず要領を得ない様子で、僕に訊いてきた。
「えっと……これを……どうするつもりだ?」
「うっ……うう……」
だんだん死にたくなってきた。
僕はペニスを胸に挟んだまま、腰を動かした。
谷間を押し分けて進むペニスに、ふにゅんとした感触が伝わる。
そのまま何度か往復させる。
乳房でペニスを擦る行為に、僕は専念した。
「もしかして……それは気持ち良いのか?」
「……それなりに」
「はぁ……」
呆然としている彼女の頬は、心なしか赤らんでいる。
出たりもぐったりするペニスの先端をじっと見つめながら、
「予想を……す、少しばかり上回った……っ」
「どんなのを想像してたんだよ……っ」
「いやなに……胸に顔をうずめて、乳首を吸って、幼児プレイとかな……」
「そっちの方が偏ってるよっ!?」
「いやいやいや……そうか?本当に?どうだ?」
「……まだこっちの方が普通、だろ……?」
その……AVとかで。
……多分。
「王好戦。請以戦喩。填然鼓之、兵刃既接。棄甲曳兵而走。或百歩而後止、或五十歩而後止。以五十歩笑百歩、則何如?」
「うるさいよっ!?悪かったよっ!」
「ふふん、しかし……どうしてヒトってのはこう……」
自分の胸を犯すペニスを、熱い視線で見つめながら、
「快感を得ることに貪欲なのかね……?」
言って、自ら胸を寄せ、僕のペニスをより強く挟み込んだ。
「ん……っ」
すべすべとした肌の感触に、吸いつくような肉の感触。
二重の快感に浸りながら、僕は彼女の胸に没頭する。
「ん……んふ……貴様は、こうやって……己オレの身体全部、犯すつもりなんだな……?」
さらに強く胸を押しつけてくる。
乳房の形が淫らに歪む。
ペニスの動きに合わせて、ぶるぶると震える。
「ん……あ……でも、全身で愛し合う、なんて……素敵なこと、だね……?」
彼女の大きな胸が重たげに弾むたびに、ペニスが硬くなるのがわかる。
実際の刺激だけではなく、そのいやらしい光景が僕を興奮させるのだ。
「ん……んん……っ……貴様のここは……熱いなぁ……」
ぷるんぷるんと波打つ乳房に呑まれる、おだやかな快感。
もどかしいけど、ひどく心地好い。
僕はしばらく、それに身をゆだねていた。
「ん……ん……んん……よいっしょ、と……」
「ふふん?ほんのちょっと、ぬるぬるしてるな?」
先走りの汁が、亀頭を濡らしているのだ。
むずむずとした感覚を、尿道口の辺りに感じる。
心地好いけど、やっぱりもどかしい。
より強い刺激を求めて、僕は胸を乱暴に掴み、腰の動きを速めた。
「きゃっ!?ん……はぁ……っ!」
ぶるんぶるんと激しく波打つ乳房に、腰が打ちつけられる。
ぺちぺちと、肌が肌を叩く音が響く。
「ちょっ……激し……っ!」
胸の谷間でペニスを擦りながら、乳房を揉みしだく。
押し潰すように円を描き、ペニスと手のひらの両方でその感触を味わい尽くす。
「こんな……乱暴に……くぅっ……!」
「はぁ……すごい力で……おっぱい……犯されて……っ!」
押したり、寄せたり、握ったり、こねたり、揺らしたり。
乳首も摘まんだり、ひねったり、引っ掻いたり……と、とにかく欲望のおもむくままに弄り尽くした。
腰の動きもより速くなる。
胸の谷間をペニスでえぐるように、擦り上げる。
徐々にペニスの先端が痺れてくる。
熱いものが尿道に込みあがってきた。
「くっ……そ、そろそろ……っ!」
「えっ?あ……その……えっ、で、出るのか……っ?」
「もう……限界っ」
「きゃああっ!?」
電流に貫かれるような快感と同時に、僕は射精した。
精液が勢い良く飛び出し、彼女の顔にまで届く。
射精はすぐには止まらない。
精液を吐き続ける間も、僕はペニスを乳房で擦り続けた。
当然、胸は精液でどろどろになった。
それが潤滑液になって、さらにペニスの滑りを良くする。
「えっ、う、うわぁぁっ、あ、熱いっ。……あ、あああっ」
「ん……んあ……ああ……」
ペニスが何度か跳ねて、ようやく射精が止まった。
彼女の顔から胸までは、白濁とした粘液ですっかり汚れてしまった。
「はぁ……相変わらず、濃いなぁ……どろどろだよ……」
「あっ……」
胸の谷間からペニスを取り出した。
精液が糸を引いて、だらんと垂れた。
「ひゃあっ……こ、こらっ」
僕は乳首で鈴口を擦り、尿道に残った精液をほじくり出す。
それでようやく、満足がいった。
「あーあ……べたつくなぁ……」
嫌そうに顔を歪める彼女。
だけど実際には、それほど嫌がっていないようだ。
谷間に溜まった粘度の高い精液を、人差し指でこねくり回して、苦笑している。
僕はしばらくぼーっとその様子を見守っていたが、
「んー?あ、……いやっ」
飛び散った精液を集めて手にとって、彼女の乳房にべたりと垂らした。
精液を胸全体に万遍なく伸ばして、ぐりぐりっと肌に染み込ませるように強く塗り込む。
「ん……んんっ!あ……己オレの胸を、何だと、思ってる……っ!」
抗議は聞き流して、黙々と作業に勤しむ。
乳輪をなぞるように精液を塗り伸ばし、乳首の奥に押し込むようにぐりぐりとした。
「つ……っ……きつく……するなぁっ」
「ん……まったく……こう女の扱いが雑だと嫌われるぞ?己オレが包容力と慈愛に溢れる、女神のような性格で良かったな?」
「……相手に合わせてるんだよっ」
一度高揚が去ったら、さすがに気恥ずかしくなった。
彼女の視線から逃れながら、精一杯の虚勢を張る。
「ふふん?つまりは己オレは特別か?善き哉。貴様があまりにも可愛すぎるので許す」
「うっ……」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、彼女は自分の胸を揉んでいた。
余った分の精液がどろりと垂れて、胸を伝っていく。
その光景がひどくいやらしかった。
「しっかし、ここまで徹底的に匂いつけマーキングしないと気が済まないなんて……」
「貴様はどこまで野獣的かつ、征服欲が強いんだか」
「う……うぅぅ……っ」
なんかエッチのたびに、死にたい気分に襲われてる気がする。
どうして自制が利かないんだ、僕は……。
「さて。ここまで獣欲に染まり切った野獣じみた獣姦趣味のケダモノ同然の貴様のことだ。
この程度では満足しないだろう……」
「……神様。こいつが世界で一番苦しい病気に罹かって、世界で一番苦みながら死にますように……」
「ふふん?良いのか?そんなこと言って……」
「ほら、こっちの方も征服したいだろう?」
彼女は邪悪極まる笑みを浮かべながら、下着を脱ぎ捨て秘部を晒した。
「くそ……チクショウ」
「ああ、まさに畜生チクショウだな。貴様は」
僕は彼女に後ろを向かせた。
「ふぁ……?」
腰を上げさせ、尻を突き出させる。
彼女は不安そうに、僕を振り返った。
「後ろからか……?」
「だめ……か?」
「そうではないが……」
竜の瞳が不安に揺らぐ。
「……顔が見えないのが、少し怖い」
それこそが望むところだ。
たまには有利な状況に持ち込まないと、死にたいくらいに僕が哀れだ。
「あ……」
尻に手を沿え、秘裂を親指で広げる。
濡れて光るその場所は、いつ見ても飽きることはない。
指を突っ込んで、かき混ぜる。
「きゃっ!?……つぅっ……くぅっ!」
驚きと痛みの悲鳴があがった。
まだ濡れ方が充分じゃないようだ。
僕は彼女の秘部に口付ける。
「ええっ!?う、うわぁっ……くぅぅんっ!」
割れ目に沿って舌を這わせ、すぐに中に突き入れる。
襞ひだの一枚一枚をめくるようにして、舐める。
「あ……うああっ……こ、これ……やらし……っ!」
またあるいは舌先を尖らせて奥を叩いたり、唇をめいっぱい押しつけて、音を立てて吸ったりした。
「あ……ああっ……ふぁぁぁ……あああっ!」
快感に彼女の秘部がぴくぴくと震えているのを、舌で感じる。
奥の方からは蜜が止め処どなく、あふれてきた。
そろそろ頃合いだな。
「はあぁっ……」
すっかり怒張したペニスを、彼女の秘裂に押し当てる。
いきなり挿いれたりはせず、入り口の付近をぐりぐりとペニスで弄ぶ。
ぐちゅとみだらな水音を立てて、柔肉が形を歪める。
「あ……あ……ぅんっ……あ……ああ……」
「ん、や……えいっ」
「ッッッ!?んん~~~~~っっ!」
充分に感触を堪能してから、一気に奥まで貫いた。
狭い膣襞を引き剥がしながら進む感覚。
はじめての時からだいぶ経つというのに、彼女のここ・はまだまだ硬かった。
膣全体で僕のをきつく締めつける。
「うくっ……辛い、な……っ」
「あ……あぅぅんっ!こ、こっちも……辛いんだ、ぞっ」
「そうか……じゃ、負けてられない、なっ!」
「あくぅっ!?くぅぅんんんんんっ!」
細い腰を掴んで、思いっきり動かした。
彼女の尻と僕の下半身が激しくぶつかり合う。
びたんびたんと、肌が肌を叩く音。
加えて、ぶつかり合う恥骨のゴツゴツとした感触が身体に響く。
「はぁぁぁっ!んんっ!あっ!やっ!ああっ!」
「くっ……うぅぅ……っ!」
僕のものを呑み込む膣肉は、僕から快感を限界まで搾り取ろうと蠕動する。
進めば押し返そうと抵抗し、引けば絡まり逃すまいと吸いつく膣襞の気持ちよさに、すぐ達してしまいそうになる。
込み上がってくるものをごまかすように、彼女の胸に手を回す。
「はぁぁっ!そんな……胸、まで……んんっ!」
たぷんたぷん震える乳房を、後ろから揉みしだいた。
さらに乳を搾るみたいに、乳首をきつく摘まみ、交互に引っ張る。
「ああっ!?あっ!ま、待てっ!そんな屈辱的……なっ!」
「……ひぃ、ううんっ!」
腰を激しく打ちつけて黙らせる。
しばらく胸を好き放題いじくり回した後、再び彼女の腰を掴む。
「ふあぁ……?ああ……」
「あああああっ!」
今までで一番激しく、彼女を攻める。
興奮でより一層いきり勃つペニスで、膣奥を何度もえぐる。
「ちょっと……!き、つい……っ!きつい、ぞ……っ!」
逃げようとする彼女の腰をしっかりと掴まえて、放さない。
今度は円を描くように腰を動かし、膣壁を引っ掻く。
膣内がびくびくっと激しく痙攣する。
「はぁっ!ああんっ!あっ!ああああっ!」
繋がるふたりの恥部はぐちゃに濡れて、ひどい有り様だった。
ぐちゃぐちゃと音を立てながら、濡れたペニスが出たり入ったりする。
そのたびに襞がめくれ上がり、押し込まれる。
醜悪ともいえる光景に、すごい興奮を覚える。
「だ、駄目……っ!駄、目……だっ!立って……られな……ひぃぃっ!」
一方的に攻められてたせいで、彼女の脚ががくがくと震え始める。
自分の身体を支えるのも大変な様子だ。
だけど僕はかまわず、彼女を犯し続ける。
もっと強く。
もっと激しく。
「い、や……っ!だ、駄目だっ!本当に……駄目ぇっ!」
「こ、怖いっ……からっ!後ろ……見えないっ、からッ!だ、だから、あっ、ああああっ!」
もっともっと、つよく。
もっともっと、はげしく。
もっと、その悲鳴を、聞かせてほしい。
僕の頭の中は嗜虐的サディスティックな優越感でいっぱいになっていた。
「ひぃやああっ!はああっ!あああっ!くぅうぅぅんっ!」
彼女をもっと泣かせるには、どうしたら……!?
「ッッッ!?きゃああっ!?」
「ああっ!?くぁっ!痛ぅっ!いぃっ!痛いぃっ!?」
気づけば僕は衝動のおもむくままに、彼女の尻を叩いていた。
ビンタで何度も、手のひらの痕が残るくらい強く。
ぱんっ!ぱんっ!……と小気味のいい音が、部屋に響き渡る。
「ひ、酷い、ぞっ!これは……今までで一番……屈辱……っ」
「ひぃいいいいっ!?」
ビンタをくれるたびに、彼女の膣はぎゅっ!と締まる。
それが楽しくて、彼女が泣くのが嬉しくて、さらに叩く。
僕の中にこんなに卑しい性癖がひそんでいたのかと思うと自己嫌悪で死にたくなる。
その自己嫌悪すら楽しんでる自分に気づいて、もっと死にたくなる。
だけど止められない。
「……はぁ……ぁぁ……ああ、あ……あ……っ」
疲れ果て、彼女は弱々しく息を荒げていた。
彼女の尻は僕がつけた紅葉ビンタの痕で、真っ赤に腫れていた。
だけど、その無惨な様子とは裏腹に、彼女の秘部はしとどに濡れていた。
次から次へとあふれてくる愛液が太ももにまで伝い、まるでお漏らしをしたかのような有り様だった。
こんなにいじめられて、だけど彼女は悦んでいた。
その事実が、僕の浅ましい欲望をさらに昂ぶらせた。
「くっ……ぐぅぅっ!」
「はぁぁぁ……あああああ――――っ!」
絶頂を求めて、僕は腰を動かした。
肉と肉がぶつかり合う音。
性器がこすれ合って起こる水音。
乱れる僕の呼吸。
乱れる彼女の嬌声。
高鳴る僕の心臓。
高鳴る彼女の心臓。
いろんな音が調和して、僕たちは同時に昇りつめる。
「はっ……はぁぁっ!もうちょっと……もうちょっとでっ!」
「くっ……ああっ……も、もうっ、出そう……っ!」
「駄目っ!もう少しっ、待って……っ!いっしょにっ、いっしょにぃぃっ!」
「くぅ……うぅぅぅっ!」
「ッっ!?ひぃぎぃいっ!?」
苦しまぎれに、僕は指を彼女の尻の穴に突き刺した。
突然の衝撃に、彼女の身体が弓なりに跳ねる。
それが合図になった。
「あっ、あっ!あああアアあああァァァァ―――――っ!」
「あっ……あっ!出るっ!」
彼女の子宮に、精液を注ぎ込む。
自分の最も下世話できたないもので、女の子の一番奥を汚す快感に、僕は打ち震えた。
「あ……ああ……膣内なかで……びゅくって……っ」
彼女の膣内なかで脈打つペニス。
子宮が飲み切れなかった分の精液があふれ出し、垂れてきた。
征服欲を満たされる、いやらしい眺めだった。
彼女を独占した喜びに、僕はしばらく浸っていた。
わたしはジークフリートの勇気。
わたしはベオウルフの英知。
わたしはゲオルギウスの正義。
わたしはミカエルの天罰。
わたしはゼウスの神罰。
わたしはインドラの瞋恚しんい。
わたしはスサノオの豪気。
あなたは陸でわたしに戮ころされる。
あなたは海でわたしに戮される。
あなたは空でわたしに戮される。
あなたは城でわたしに戮される。
あなたは曠野こうやでわたしに戮される。
あなたは洞窟でわたしに戮される。
あなたは廃墟でわたしに戮される。
あなたは剣でわたしに戮ころされる。
あなたは槍でわたしに戮される。
あなたは矛でわたしに戮される。
あなたは矢でわたしに戮される。
あなたは鋤鍬でわたしに戮される。
あなたは毒盃でわたしに戮される。
あなたは呪いでわたしに戮される。
「おまえの接吻くちづけと想うなら心臓ハートに埋うずもる刃もまた愛し」
「~~~~♪」
「朝っぱらからテンションの高い奴だ」
「ふふん、命短し恋せよ乙女だ。ならば今、かけがえのない瞬間トキを全力で満喫せねば」
「ドラゴンの寿命って長そうだが」
「んー?そうでもないぞ?」
「本当に攻撃を行わなくても良いのですか?」
「あー、良よい。今ンとこ大人しいしな。
かえって刺激せん方がええよ」
「しかしドラゴンの姿になられたら手に負えないのでは」
「莫迦バカかね貴官は?あの姿でも充分手に負えないさ」
「そうなのか?」
「そうだろう?」
「いや、僕に訊かれても」
「いや、貴様たちの方が理解してるだろう?」
「……?」
「あの少女の形をした可愛らしい小さな器の中には、ドラゴンのパワーと質量が収まってんだ。ミサイルの直撃にだって耐えるだろうさ」
「では、どうしろと?」
「何も出来ねーよ。今までどーり」
「……師団長ぉ~~」
「今まで私らがマトモに戦えたことがあったか?あーあーだりー」
「毎回斃たおされているだろう、我らは?」
「は?」
「だから竜はいつも最後には斃たおされるだろう?そうでなきゃこんな小さな国、とうの昔に消し飛んでるさ」
「いや、それはそうだけど……寿命関係ないじゃん」
「なんで?」
「いや、決まってるだろ」
「だって毎回・だぜ?例外なく・・」
「…………」
「それでも最終的に人類は竜に勝利しているではありませんか。50年前、最初の竜が侵攻してきた際も、人類の科学力が……」
「――あんときの秘密兵器ってどうなった?」
「は?」
「あんときってどっかの科学者が発明したすっげーイカス秘密兵器で、ドラゴンぶっ殺しただろ?」
「……そんときの兵器って、どうなったのよ?」
「それは……兵器の悪用を恐れた発明者が、自らの命ともども……」
「なるほど。じゃあ実在しないんだよ」
「……は?」
「実在しないなら、それは幻想ファンタジーだったのさ」
「幻想を殺すのは幻想だけ。それで道理が通る」
「つまり、だ。我ら竜は斃されて死ぬ時が寿命なのさ。
ほら、大して長くないだろう?」
「ふふん、だから『命短し~』でも別に間違っちゃいないさ」
「……なんだよ、それ」
「?」
「そんな馬鹿な話があるかよ……」
「あるよ」
「なんで……っ!」
「だから奴がいるんじゃあないか……」
>竜殺機関第伍版一〇刷:■■■■■[閉]
「『竜殺し』が――――」
「~~~~~ッッッ!?」
■『竜殺し』の場合ターン
「どけろ!」
僕は突き飛ばされた。
すぐ目の前を、光が走る。
「ぐぅぅっ!」
「……ッ!おいっ!」
彼女が僕を庇ったのだ。
光の刃が彼女を斬り、血飛沫が舞う。
「大丈夫か!?」
「無傷だ!」
「どんな強がり方だ、それは」
傷の痛みに苦しみながらも、彼女は不敵に笑う。
「来たか……己オレのベオウルフは」
「『竜殺し』……!」
ついに……来た!恐怖で全身の鳥肌がざわめく。
感情のない複眼が、僕たちをねめつける――>竜殺機関第伍版一〇刷:英雄譚委員会ラウンド・オブ・テーブルノ決議に従イ――いや……待てよ。
>竜殺機関第伍版一〇刷:――選剣ノ儀ヲ此処ニ執リ行ウ.待てってば。
「なんか……僕のほうばかり見てないか、こいつ?」
「ふふん?愛されてる、のかな?」
「迷惑だっ!?」
>竜殺機関第伍版一〇刷:――推シテ参ル.[閉]
「うわあああああっ!」
「ぬわっ、くっ、おおおっ!?」
「はぁ……はぁ……どうして僕ばかり!?」
「狙われてるからだろう?」
「おまえもじゃないかっ!」
「殺しやすい方から先に……ってことかな?」
「最悪だ!?死ぬるっ!」
「くっ!?……熱ぅ」
剣をかわしながら、背中が焼けつくのを感じた。
あの痣だ。
菩提樹の葉の痣が燃えるような熱を持っているのだ。
竜の血を浴びた者の証。
「これのせいで……っ!」
剣の動きは速すぎて、まったく見えない。
当てずっぽうで逃げ回るほかない。
「うっ……」
少しバランスを崩す。
すかさず繰り出される斬撃。
……駄目か!?
「はんっ!」
間に入った彼女が、『竜殺し』の剣を防いだ。
光の刃を弾いた腕は鱗に埋め尽くされている。
少しだけ本性を現しているみたいだ。
「手助けはしてやろう」
「当たり前だ。もともとはおまえのせいだっ」
「だけど最後は自分で解決したまえよ?」
「無茶言うなっ!?」
「貴様なら出来るさ、己オレの恋人。御武運をグッドラック!」
「死んでくれっ!」
>竜殺機関第伍版一〇刷:当方ニ対スル妨害行為ト判断スル.警告,竜ハ英雄譚委員会ラウンド・オブ・テーブルノ定メル……
「黙りたまえ!」
繰り出された蹴りを食らい、わずかに後ずさる『竜殺し』。
即座に剣を振りかぶる。
>竜殺機関第伍版一〇刷:偉業執行妨害.排除[閉]
「ふんっ!」
再び『竜殺し』の攻撃を鱗で弾いた。
そのたびに白い鱗に光の線ラインが浮かぶ。
『竜殺し』はさらに踏み込み、連続で斬りかかる。
「くっ!はっ!ちぃっ!」
一見、防戦一方のように見える。
だけど彼女の表情は冷静で、何かを狙っているようだった。
鱗を走る光が、いっそう強く輝く。
「調子に――」
>竜殺機関第伍版一〇刷:危険度=乙甲甲ノ参.回避.[閉]
「乗るなぁぁっ!」
瞬間、腕を覆う鱗が変形して、剣のように伸びた。
腕から生えた白い刃で『竜殺し』に斬りかかる。
『竜殺し』は弾かれるように飛びのいた。
胸元には、一本の瑕きずが斜めに走っていた。
「ちぇっ、惜しい」
不敵に笑って、鱗の刃を構える。
『竜殺し』もまた、応えるように構え、
「さて……一緒に踊ってもらおうか」
「参れ!『竜殺し』!」
ぶつかり合う刃と刃。
そのたびに、電光が火花のように散る。
剣撃は目で追えない域まで加速する。
ただ剣閃ひかりだけがお互いの間を飛び交う。
「くっ……!」
互角に見えた勝負。
しかし少しずつ、彼女が劣勢に追い込まれていく。
血がにじみ出て、彼女を赤く染める。
僕を庇って、負った傷だ。
このままじゃ……!
「コォォォォォ――……」
戦う彼女の呼吸法が変わる。
竜眼と逆鱗に宿る光。
ドラゴン・ブレスの兆候。
>竜殺機関第伍版一〇刷:危険度=甲ノ弐.対呪法防御.[閉]
「凄惨セイサンなりし煉獄レンゴクの口づけ、とくと味わえ!」
「ぐぅぅぅ……っ!」
閃光が辺りを白く染め上げる。
白い視界の向こう、躍る二つの影が――
「ハァァァァァッ!」
激突するふたりは、互いの背後へと駆け抜けた。
そして――
「あっ……!」
鱗の刃が折れて、宙を舞った。
そのまま遠くの地面に突き刺さる。
「ぐ……ぅっ」
彼女は倒れた。
地面に血が広がっていく。
赤だけでなく、金が飛沫しぶく。
「あああああっ!」
だが『竜殺し』もまた無事ではなかった。
ブレスを浴びて、全身が赤熱している。
鉄板が焼けるような音がした。
膝を突き、そのまま動かなくなる。
倒したのか……?いや、違った。
複眼が不気味に明滅する。
胸に刻まれた瑕きずが、少しずつふさがっていくのが分かった。
溶けかかってた鎧も同じだ。
このままじゃ復活してしまう……だけど動けない今なら、倒せるかも知れない!トトドドメメをを刺刺すすそそれれはは危危険険だだトトドドメメをを刺刺すすトトドドメメをを刺刺すすそうと気づいたからには、もう迷わなかった。
――走る。
途中で地面に刺さる鱗の刃を引き抜いた。
思っていたよりずっと軽い。
「うおおおおおっ!」
『竜殺し』に向かって、刃を振り下ろす。
唖然とするほど、あっけなかった。
「えっ?」
振り下ろした刃は何の抵抗もなく、『竜殺し』を両断した。
真っ二つになって『竜殺し』は地面に倒れる。
「えっ?ええっ?」
「はは……本当に、やりやがった」
身を起こしながら、彼女はひどく嬉しそうに笑った。
無邪気な、邪悪極まりない、微笑み。
「これは……どういうことだ?」
「何が?」
「だって……こいつ・・、空っぽじゃないか・・・・っ!?」
真っ二つになって転がる『竜殺し』。
しかし鎧の中には誰もいなかった・・・・。
ただの、がらんどう・・・だ。
「当たり前だ」
「言っただろう?それは舞台道具・・だって」
「何の話……」
『――英雄ハ此処ニ降臨サレタ』突然、声が聞こえた。
頭の中に直接響く声。
『――今ヨリ我ハ英雄ノ剣トナリテ竜ヲ討ツ』
「なっ……!?」
真っ二つになった『竜殺し』が、光の糸になって解ほどける。
「それは竜殺しの英雄そのものじゃあない」
光の糸が僕に伸びる。
輪廻の蛇のように渦巻きながら。
「それは英雄が使う武器・・・・――竜を斃すための魔法の武具・・・だ」
「だが聖剣は持ち主を試す。菩提樹の刻印は『試し』の証だ」
「……ふふん?やはり神話とあべこべだな?」
それはやがて二重螺旋を編み、僕の身体に絡みつき――
「英雄は試練を経て、魔法的手段を手に入れ、困難を克服し、栄光を勝ち取る……英雄譚とはそういうものだ」
「恋人よ。貴様は今、試練を超えた」
細胞と金属が融け合うような一体感。
僕の脳に電流が走る。
電流が、僕に語りかける。
『――英雄譚ノ完成ヲ.我が主マイ・ヒーロー』
「あはははは!どうだ『竜殺し』!己オレの目に狂いはなかっただろう!」
「己オレが選んだんだ!そいつを!愛しい愛しい己オレの殺戮者コイビト!」
■「竜殺しの英雄」の場合ターン
「……さあ、恋人よ。呪いの様に生きて、祝いの様に死のう」
(駈ける)――竜を戮ころせ。
(殺意より迅はやく)
「ハァ――――ハハハハハッ!」
(ぶつかり合う刃†鱗)
(衝撃/摩擦/爆ぜるエーテル)
(荒れ狂う爆風×爆光)
(爆心地グラウンド・ゼロ)
(鍔迫り合いの距離)
(見つめ合うふたり)――竜を戮ころせ。
「良いぞ己オレの英雄己オレの恋人!」
「突き立ててみろ!貴様の殺意を、己オレの逆鱗に突き立ててみろ!」
(さらけ出す喉元)
(其処に埋め込まれた金属片)
(鈍く輝く鱗)
(『逆鱗』)
(竜の急所)――竜を戮ころせ。
「貴様が触れたのだ!貴様はこの世の誰よりも早く、己オレのこの場所に触れた!」
「貴様が、はじめて、なのだ!」
(恋に潤んだ声)
(呪いを告げるように)
「――この純潔を貫くのは・・・・・、己の選んだ恋人だけだ・・・・・!」
――竜を戮ころせ。
「がはあっ!」
(刃が走る)
(黄金きんの鮮血)
(金色の雨が降り注ぐ)
(彼を濡らす)
(彼女を濡らす)
「は……は……っ……はははははっ!」
(彼女は大きく飛び退く)
(流れる血を引き連れて)
(飛翔する)
(黄金きんの血風と化して)――竜を戮ころせ。
(彼は追って地を蹴る)
(剣閃の残像を空に刻みながら)
(飛翔する)
(漆黒クロの剣風と化して)
(黄金と漆黒の風が交差する)――竜を戮ころせ。
(彼の刃が彼女を引き裂いた)
(黄金きんが爆ぜる)
(彼女が爆ぜる)≪ふふん……愛し合おうじゃあないか≫(爆ぜる黄金きんが血の嵐となって吹き荒れ、血流となって渦巻いた)
(黄金きんの竜巻)
(彼は黄金きんの濁流に呑み込まれる)
(流れ)
(打たれ)
(裂かれ)
(砕かれ)≪この身を食い破る爆裂よ≫≪この身を引き裂く回転よ≫≪宇宙の総てを巻き込み、廻れ廻れ≫(黄金きんの竜巻はやがて、無数の蛇となる)
(幾千幾万幾億に及ぶ黄金きんの蛇の群れ)
(黄金きんの蛇は互いの尾を喰らい、螺旋ゲノムを繋ぎ、黄金律を形成し――)
(エーテル海に折り畳まれた質量が今、展開される)
(彼は黄金きんの濁流から投げ出された)
(だが竜殺機関が適切な状況判断を下すより早く――)
(竜の顎アギトが)
「市街上空に巨大質量出現!ドラゴンです!」
「動き出した!?……何故、突然?」
「なおドラゴンと同座標に、別種のエーテル反応あり!同じく神話級!」
「なんだってっ!?いったいどういう……」
「まさか……アレか?」
「師団長!」
「――ッ!」
「第17師団出撃!ドラゴンを食い止める!」
激痛と共に理解する。
僕はドラゴンの顎に囚われていた。
装甲が巨大な牙に押し潰され、ひび割れる。
この調子では肋骨も折れてるか。
――竜を戮ころせ。
問題ない。
身体を引き裂かれていないだけ僥倖ぎょうこう。
全体にエーテルを循環させ、脱出の機会をうかがう。
ドラゴンは飛翔するのに最適な形態へと、自らの姿を変形・させた。
物理法則の制約を振りほどくような速度で、翔ける。
上昇し、雲を貫く。
雲の中では絶えず稲光が輝き、ドラゴンの白い身体を照らす。
――竜を戮ころせ。
『オオオオオ――!』≪――――ッ!?≫顎の力が弱くなった一瞬を狙って、全身の力を込めた。
牙を砕き、竜の顎から脱出する。
宙に投げ出される。
慣性の法則の魔手に捕まる前に、全身をエーテル膜で防護コーティング。
――竜を戮ころせ。
稲妻イナズマ走り、ドラゴンに突撃する。
光弾/光刃と化して、ドラゴンの鱗を引き裂く。
黄金きんの血が飛沫しぶく。
『――――!』竜の血を浴びた鎧が嫌な音を立てて、焼け爛れる。
――血の成分を組み替えて、猛毒に変えたのか。
脳を走る電流が、無視できない脅威を警告する。
黄金の飛沫が一斉に爆発する。
爆炎と爆風の乱舞が、僕を襲う。
衝撃。
激痛。
暗雲に大穴が開く。
エーテル膜が破られ、雷翔力が奪われる。
たちまち物理法則が僕を捕縛した。
雲を突き抜け、墜ちる。
ドラゴンが追ってくる。
僕を殺さんと、顎あぎとを開く。
奈落の底のような喉の奥に、地獄の業火のような光が溢れる。
危険度=甲甲ノ壱――竜を戮ころせ。
対抗すべく、手にした剣を構える。
――竜を戮ころせ。
必殺バルムンクの一撃を今。
『オオオオオ――――!』
光柱ヒカリが墜ち/竜を戮ころせ/剣閃ヒカリが昇り/地を穿うがき/竜を戮せ/天を衝き竜を戮せ/竜を戮せ竜を戮せ/竜を戮せ/竜を戮せ
……僕は今、いったいなにをしてるんだ?空から降ってきた、光の柱が街を貫く。
高層ビル群が超高熱と超高度のエーテルに溶かされ蒸発し、あるいは爆風に吹き飛ばされて軽々と宙を舞う。
飛行形態をほどき、白の竜が硝子ガラス化した大地に着陸する。
轟音が地の底までをも揺るがし、倒壊を免れていたビルが一斉に崩れた。
ありえない軌跡を描いて、稲妻が落ちる。
狂奔するその稲妻は、ひとつのビルの側面を撃った。
電光が爆ぜ、ビルの壁面に立つ黒の英雄が姿を現した。
「首をもたげ」
/
「頭上を仰ぎ」
「睨み合う」
=
「見つめ合う」
相対する
「白」†「黒」
シロ+クロ。
互い、無傷ではいられなかった。
白の竜は黄金きんの血を滝のように流し、黒の英雄は辛うじて人型を留めていた。
しかし、それは致命傷には程遠い。
ふたりは生き物ではない。
幻想だ。
首を落とそうと、心の臓を貫こうと、幻想は戮ころせない。
物語がそれを求めぬ限り。
いつの間にか嵐が来ていた。
然るべき舞台の、然るべき演出効果。
然り。
幻想には然るべき手順と、然るべき決着を。
■黒クロの手順ターン
ダメージは大きい。
竜殺機関は自己修復を急いでいるが、その前に僕の身体がもたなくなる。
決着をつけなければならない。
――竜を戮ころせ。
逆鱗だ。
あれを狙う。
ドラゴンにとって、おそらく唯一の急所。
ジークフリートにとっての、菩提樹の一葉。
やっぱり神話とあべこべだな、と彼女・に同意する。
……僕は何をやってるんだ?なんでこんな格好で、殺し合いなんかやってるんだ?全然、意味がわからない。
――竜を戮ころせ。
構える。
身は低く。
獲物に襲いかかる前の猛獣のように。
『なぜだ』――竜を戮ころせ。
駆動系にエーテルを廻し、稲妻イナズマ走るための力を蓄える。
『なぜだ』――竜を戮ころせ。
なぜだ・・?――竜を戮ころせ。
なぜだ、と訊いている。
答えろ。
死なすぞ。
――偉業を。
なんの話だ?――偉業を成し遂げ、英雄譚の完成を。
なぜ僕が?――菩提樹の刻印。
竜の血を浴びた者にこそ。
だから、あべこべだぞ?――否ネガティブ。
…………?――『因』『果』は切り離せない。
決して。
なにを言ってる?――物語に夢ロマンを。
我が主マイヒーロー。
既に身体は動いていた。
稲妻イナズマ走る。
■白シロの手順ターン
そうだ。
それで良い。
己オレの可愛い恋人よ。
夢だ。
まるで夢の様だ。
鱗の生を享けて生まれし者は数あれど、かくも麗しい夢ロマンを与えられた者など、そうはおるまい。
なればこそ、己オレは世界が差し出す毒盃を飲み干せるというものだ。
さあ来たまえ、恋人よ。
己オレの胸に抱かれるが良い。
死の接吻を交わし、刃の愛撫を交わそう。
牙で舌を食い千切り、鉤爪で柔肌を刻もう。
そして、己オレの、最も、深い場所を、貴様の、最も、険悪なもので、奥を、この奥を、最奥を、我が逆鱗を貫いてみせよ恋人よそれでふたりの物語は完成するのだから。
■「僕」の場合ターン
ドラゴンから流れる血が重力に逆らって、上空・に向かって流れ出した。
無数の血の筋が、鎌首をもたげる蛇のように天を衝く。
その切っ先が槍の穂のように鋭く尖った。
黄金の多頭蛇ヒュドラが襲いかかる。
黄金の槍が雨のように降り注ぐ。
隙間を縫って走る/走る。
僕を捉えられず、地面に突き立つ無数の槍。
しかしそれはすぐに液状になって崩れ、津波になって僕を呑み込もうとする。
上空に急上昇する。
それを追って、黄金の津波から無数の槍が生える。
今度は下から、黄金の槍が迫る。
黄金の血流は液体から固体あるいは気体と、絶え間なく形態を変えて、僕を襲う。
このままではいずれ、逃げ切れなくなる。
その前に・・……!――竜を戮ころせ。
その前に・・……なんだよ?――竜を戮ころせ。
だから、なんだってんだよ。
――竜を戮ころせ。
なんで、そんなことしなくちゃならないんだ。
――偉業を成し遂げ、英雄譚の完成を。
だから!なんで!僕が!そんなこと!しなくちゃならないんだッッッ!――竜を戮ころせ。
おまえが死ねッッッッッ!
「ッッッ!?しまっ……!」
避け損ねた。
直撃こそ免れたけど、黄金の槍に撃たれ、速度を失う。
墜ちる。
地表したでは、黄金きんに輝く血の海が待ちかねていた。
重油タールのような黄金がのしかかってきて、僕を捕らえた。
身動きが取れない。
そして、身体の自由を奪われた僕にドラゴンは――
「またか……!」
竜眼と逆鱗が眩い輝きを放つ。
脳を駆ける電流が、今までにない規模のエーテル反応を感じ取った。
危険度=甲甲甲。
今度こそケリをつけるつもりらしい。
次こそ本気中の本気。
特大の大玉が来る。
竜の吐息ドラゴン・ブレス。
形あるものの一切を灰燼に帰す鏖殺おうさつの吐息。
あれをもらったら、今度こそ跡形もなく消し飛ぶ。
早く逆鱗を/いや違う/竜を戮ころせ/違うって言ってんだ/くそ、動けない/竜を戮せ/逆鱗を撃たねば/なんとか脱け出さないと/竜を戮せ/違う違う違う/逃げないと/そして逆鱗を/違う死ね/竜を戮せ/竜を戮せ/逆鱗/僕は/竜を戮せ/竜を戮せ/竜を戮せ/彼女を/竜/戮/逆鱗――――ドラゴンの姿は、もはや光の向こうに隠れて、見えない。
ここから脱出できたところで、もう間に合いそうもない。
駄目か。
恐怖はなかった。
なぜか、ひどく安堵していた。
そして、破壊の光が解き放たれる――まさにそのとき。
図ったようなその瞬間タイミング。
「……なんだよ、これ」
「目標!神話固体!頭部に火力を集中せよ!」
「撃てぇ―――――ッ!」
防衛隊の攻撃が、次々とドラゴンを襲う。
もちろん今まで通り、効いてる様子はまったくない。
だけどドラゴンにとっては、明らかに集中を乱される状態かたちになった。
絶対の好機・・・であることに何の疑いも持たない。
だから――――竜を戮ころせ。
(全力の稲妻イナズマ走り)
(黄金の血による捕縛を、力ずくで引き千切る)なんだよ、これ?なんなの、いったい?(黄金きんの雨が、嵐に混じる)
(綺羅綺羅と輝く雫の一粒一粒を視界に捉え、)
(翔ける)なに、この茶番。
なんなんだ、このクソみたいな展開。
(嵐の中を)
(光になって)バカじゃねえの?バッッッッッカじゃねえの?(ドラゴンがこちらに気付く)
(再び破壊の息吹が、喉の奥に宿る)
(それを阻むように、防衛隊の砲撃は続く)対竜機甲師団長殿。
僕の保護者殿。
貴官まで、こんな三文芝居に付き合うのでありますか?(翔ける)駄目だ。
耐えられない。
僕の良識が耐えられない。
(翔ける)恥を知ってるなら死ぬべきだと思う。
僕も。
彼女も。
防衛隊も。
(迫る)
(輝く、竜眼)
(喉の奥の劫火)
(輝く、逆鱗)ドラゴンも。
『竜殺し』も。
英雄も。
(迫る)
(逆鱗)
(逆鱗)夢も。
幻想も。
恋ですら。
――竜を戮ころせ。
(
「僕」
は)
(
「†」
を)
(
「彼女」
に)正正ししくくああるる間間違違ええるる正正ししくくああるる正正ししくくああるる間間違違ええるる間間違違ええるるむかし、むかし。
まだこの世がみずからの尾をかむ竜のように完全だったころ。
なにもかもが満ち足りてたころ。
だれもかれもがひとりぼっちで完成していたころ。
とあるひとりの竜が、くるった――
「そのくるった竜はどうなったんだい?」
「罪を負い、呪いを享けた」
「……呪い」
「供物リヴァイアサンの呪い。総ての竜は生贄として捧げられる」
「……普通、逆じゃないか?」
「最後に斃されるのは竜。最後に捧げられるのは、いつだって竜さ」
「何に捧げられるんだ?……神様?」
「違う」
「夢ロマンに」
「夢ロマン?」
「はじまりの竜がくるったから。くるった竜が自らの尾を離したから。
世界は壊れてしまった」
「誰も彼もひとりっきりで生きられなくなったから。夢が、必要だったんだ。
誰もが憧れる、心躍る夢が。
――英雄譚とはそういうものだ」
「英雄……」
「だからこそ、我ら竜は無限に戮ころされ続ける。夢ロマンがそれを求めているから」
「なんだよ、それ……そんなのメチャクチャじゃないか。そんなワケのわからないものに、生き方を左右されるなんて……」
「驕るな、人間」
「……ッ」
「泳ぐことを疑う魚がいないように、飛ぶことを疑う鳥がいないように、捧げられることを疑う竜はいない」
「貴様の瞳に映る世界が、世界の総てではあるまい。夕餉に並ぶ家畜にも、家畜の矜持と世界観がある」
彼女が僕を、振り向いた。
視線が重なる。
ヒトの瞳。
竜の瞳。
僕の瞳に映る世界。
彼女の瞳に宿る世界。
「我ら竜はね」
彼女はやっぱり曇りのない――迷いのない瞳で、そう言った。
「呪いの様に生きて祝いの様に死ぬのだ」
「己オレは十全を生きたぞ」
「……戮ころされることが?」
「――恋に生きたことが」
こともなげに断言して、笑った。
無邪気な、邪悪な、微笑。
「しあわせな恋をした。愉快な恋をした。
だからこそ――」
「貴様でなくては駄目だ。己オレのはじめては、全部貴様が良い」
「恋をするのも。口づけを交わすのも。
抱かれることも」
「肌に爪を立てるのも。鱗に刃を通すのも。
この命を刈り取るのすら。
全部、全部」
「――恋人よ。己オレの英雄は、貴様が良い」
そういって、彼女は、無防備に喉元をさらす。
逆鱗。
そして、僕は、
「……ざける、な」
「……?」
「ふざけるなっっっっ!」
僕は、もう怒りを止められなかった。
「つまり結局、おまえはッッッッ!」
意識が現実に引き戻された。
稲妻イナズマ走りながら見る世界は、僕が速く動いているというより、周りの時間が遅くなっている感じだ。
ゆっくりと、ゆっくりと。
一瞬の時間を、無限の時間をかけて、翔ける。
視線の先には逆鱗――ドラゴンの急所がある。
まっすぐに、ただまっすぐに。
放たれた矢のように、その場所を目指す。
すべてがひきのばされた時間の中で、ただ思考だけが高速で走る。
馬鹿だ。
やっぱりおまえは馬鹿だ。
馬鹿で非常識で自分勝手で迷惑な馬鹿の馬鹿だクソ死ね。
結局はだ、クソ。
結局おまえは、自分の恋しか・・・見ていなかった・・・・んじゃないか!
「恋に恋するお年頃」
ってか?なんだそれはふざけるな馬鹿死にさらせ。
さんざん振り回された挙句に、置き去りにされる僕の身になってみろ。
これじゃ、まるっきりマヌケの道化じゃないか。
死ぬよ?許さない絶対に許さない死なす絶ッ対に死なすッッッッ!恋愛はおまえが考えてるような奇麗事ばかりじゃないことを思い知らせてやるっっっっ!
「クロスカウンタァァァァァ――――!」
そして、必殺の一撃は、逆鱗を貫いて――
「なんだぁっ!?ぐっ……!」
「やった……のか?」
(竜の巨体は、光になってほどけて)
(無音/轟音/閃光/白闇/爆風/無風)
(光という光が荒れ狂い、音という音が荒れ狂った)
(衝撃)
(加速する光)
(衝撃)
(衝撃)
(逆転する時間)
(衝撃)
(衝撃)
(衝撃)
(――爆裂――)
(衝撃の中心グラウンドゼロ)
(其処は回転する運命の輪の中軸――)爆発は嵐を一撃で吹き飛ばした。
暗雲は散り散りになって、明るい陽光が降り注ぐ。
出来すぎた絵面づら。
そう。
かくして戦いは終わり、ドラゴンは倒されて、英雄の物語は大団円で締めくくられる。
ハッピーエンド。
ハッピーエンドだ。
死にたくなるほど完璧でクソッタレな。
クソ。
クソ。
僕は……物語的・・に間違えたかったんだ・・・・・。
それなのに、こんな……チクショウ。
「……え?え?えぇ?」
「……どうして?」
■「僕」と「君」の場合ターン
腕の中の彼女・は、呆然とした顔で僕を見上げている。
僕もまた彼女を見つめ返した。
視線が重なる。
ヒトの瞳。
竜の瞳。
僕の瞳に映る彼女。
彼女の瞳に宿る僕。
「いったいなにが……?」
「夢ロマンなんだろ?」
「え?」
「心躍る英雄の物語!誰もが憧れる夢物語!どうだ、ご期待どおりじゃないか!」
「しかし己オレは……竜がまだ……」
「だからさっ!」
怒鳴るような僕の声に、彼女はびくんと震えた。
恥ずかしさをごまかすため、僕はさらに叫ぶ。
「悪いドラゴンを倒してっ!お姫様とハッピーエンドだっっっ!ほら、完璧じゃないかっ!」
「……………」
「あああああ!もう!死にたいっ!」
恥ずかしい恥ずかしすぎるっ!なんだよ、これ?なんなの、いったい?なんで……なんで、こんなベタベタな……!
「……………」
彼女は、ただただ呆然としているだけだ。
気まずい沈黙が流れる。
彼女がようやくのことで、しぼり出した言葉は、
「……あ~~」
「なんと、まぁ……」
「恥ッッッずかしい奴だな、貴様は……」
――分かってます。
死ね。
まぁ、いいさ。
もう、いいさ。
ここまで来たら、あれだ。
「英雄の物語は終わっても、ふたりの物語ははじまったばかりだ」
なんてな。
そんなこっ恥ずかしい科白せりふで締めくくってもいい。
もうヤケだ。
どうとでもなれ。
「……ふふん」
ようやく彼女が笑った。
無邪気な、邪悪な、微笑み。
気に食わない。
とても気に食わない。
「それじゃあ、まぁ、まず……――恋っぽいことしようか?」
「……ふん」
馬鹿か。
恋
「っぽい」
ってなんだ。
恋
「っぽい」
って。
だからおまえは手に負えないんだ。
まぁ、いいさ。
まだ・、いいさ。
これからだ。
何もかもこれからだ。
つまり、その、なんだ。
何が言いたいかっつーと……――少しは真っ当・・に、本気・で、恋、してやらんでもない。
むかし、むかし。
まだこの世がみずからの尾をかむ竜のように完全だったころ。
なにもかもが満ち足りてたころ。
だれもかれもがひとりぼっちで完成していたころ。
とあるひとりの竜が、くるった。
恋に、くるった。
――そんな、とある竜の恋の歌。
竜†恋[Dra+KoI]
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